野球部から吹奏楽部へ。今秋ドラフトでプロ入りが決まった球児たちが、甲子園での応援に感謝をこめて激励の逆エール |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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野球部から吹奏楽部へ。今秋ドラフトでプロ入りが決まった球児たちが、甲子園での応援に感謝をこめて激励の逆エール

「吹部ノート2」より感動のエピソード

 2016年は、高校野球と吹奏楽部の応援の話題が盛り上がった年だった。各校が奏でる応援演奏やそのルーツに注目が集まったり、野球部員と吹奏楽部員の恋愛を描いた映画『青空エール』が公開されたり、テレビでもドキュメンタリーで取り上げられたりするなど、今までにないほど「応援バンドとしての吹奏楽部」という一面にスポットライトが当たった。

 その図式は、「応援する吹奏楽部」と「応援される野球部」という形である種固定されている。しかし、野球部が吹奏楽部を応援するという「逆応援」が感動を呼んだ例もある。11月26日に刊行された書籍『吹部ノート2 青春のすべてはその12分間のために』(ベストセラーズ)にエピソードが掲載されている。

 埼玉県の花咲徳栄高校は、野球部が今夏まで甲子園に春夏合わせて8回出場する県内屈指の強豪。今夏の甲子園出場メンバーの中には、後にドラフト会議でプロ球団から指名されることになる主将の岡﨑大輔、エースの高橋昂也といったスタープレイヤーも含まれていた。

 一方、それを応援する吹奏楽部も高校野球ファンの間では有名な存在だった。試合開始前に行う基礎合奏(音程やハーモニーなどを整える基本練習)に始まり、歴代のスラッガーのテーマ曲である《サスケ》や野球部員たちの士気を高める《オーメンズ・オブ・ラブ》など、その応援演奏を楽しみにしている者もいるほど。それもそのはず、花咲徳栄高校吹奏楽部も「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールにあと一息で手が届くところまで来ている強豪なのだ。

 今年の夏、その「吹奏楽の甲子園」への初出場を目指す吹奏楽部は、野球の甲子園のアルプススタンドで力強い演奏を披露し、グラウンドで奮闘する野球部を後押しした。

 花咲徳栄高校野球部は3回戦で栃木県の作新学院高校と対戦し、残念ながら2対6で敗れた(作新学院は同大会で優勝した)。野球部は甲子園から戻ってくると、岡﨑大輔と高橋昂也が代表として吹奏楽部に謝辞を述べるために練習場へやってきた。

 練習場までやってくる途中、岡﨑が吹奏楽部監督の川口智子先生に尋ねた。

「先生、今、吹部はどんな状況なんですか?」

 川口先生は、吹奏楽部がコンクールの県大会を通過して西関東大会に臨む前だということ、西関東大会を突破すれば夢の全日本吹奏楽コンクールが待っているということを話した。実は、吹奏楽部は県大会の成績が予想をはるかに下回り、ぎりぎりでの通過だったため、部員の間には「もう全国大会なんて無理なんじゃないか」というあきらめムードが漂っていた。しかし、川口先生は敢えてそのことを岡﨑や高橋には語らなかった。

 だが、野球部員として厳しい練習の日々を経験し、甲子園の大舞台に立った二人は、練習場に入った瞬間にそんな吹奏楽部のムードを察知したのだろう。

「吹奏楽部の皆さんには温かい応援をいただき、選手たちが甲子園の舞台で堂々と力を出し切る上で後押しになりました。本当にありがとうございました」

 集まった吹奏楽部員たちを前に岡﨑が言い、高橋とともに頭を下げると、吹奏楽部員たちから拍手が送られた。さらに続けて、岡﨑はこんなスピーチをした。

「川口先生からは、吹奏楽部は県大会で銀賞だったとお聞きしました。自分は吹奏楽の大会のルールはよくわかりませんが、まだ全国大会に出場できる可能性はある、と。まだ見たことのない全国大会に川口先生を連れていきたいという思いがあれば、自分は絶対行けると信じています。自分や高橋も、部員全員が岩井(隆)監督を2期連続甲子園、3期連続甲子園に連れていってあげよう、岩井監督を男にしてやろうという思いで練習に取り組んだ結果、甲子園に出ることができました。野球部からはなかなか吹奏楽部への応援ができませんが、今日は吹奏楽部を応援したいと高橋と一緒にここへ来ました」

 野球部キャプテンからのエールに、吹奏楽部員たちはハッとした。自分たちに足りないものは、演奏技術はもとより、自分たちのためだけではなく、まず人のために演奏しよう、日々指導してくれている川口先生を全国大会へ連れていこうという思いだ。自分ではなく誰かのためだからこそ頑張れるし、あきらめるわけにはいかない。

 野球部からの最高の応援をもらった吹奏楽部は、運命の西関東大会に臨んだ。結果は、金賞受賞。しかし、全日本吹奏楽コンクールに出場できる代表3校には選ばれることはできなかった。それでも、野球部からもらったエールは吹奏楽部員たちの胸に生き続けている。

 吹奏楽部には部活動中に感じたことなどを書き綴って川口先生に提出する「吹部ノート」があるが、一人の部員が西関東大会後にノートにこう書いた。

『来年は絶対に全国大会に出て、川口先生を男にしてみせます。』

 川口先生のため、応援してくれる人たちのため、花咲徳栄高校吹奏楽部は来年も「吹奏楽の甲子園」を目指して挑戦を続ける。

 吹奏楽部から野球部へ、野球部から吹奏楽部へ…。高校生たちの爽やかなエールの交換が、一度きりの青春の中で美しく響き合った。それはきっと、それぞれの“甲子園"に出場することとはまた違った、かけがえのない人生の宝物になるに違いない。

 なお、花咲徳栄高校野球部の岡﨑大輔はドラフト会議でオリックス、高橋昂也は広島から指名を受け、プロ野球での活躍が期待されている。

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