それどころか、一九七八年四月、日中平和友好条約締結前に、一四〇隻の中国の武装漁民が尖閣周辺に集結し、その領有を主張した事件を上回る事態である。これは、鄧小平が日中平和友好条約において「尖閣は日本領土」をという一文を入れさせないための戦略であった。このとき、福田赳夫内閣は中国から「尖閣の日本領有」の言質をとらないまま友好条約を締結し、今に至るまでの禍根を残すことになった。一九七八年四月の事件は、尖閣防衛において、中国の実力行使に日本政府がいかに無力であったかを露呈するものであり、このころから、実力によって尖閣諸島を奪うというシナリオが中国に存在した。

 その後、二〇一二年に日本側が尖閣諸島の国有化を行ったことで、日中間の緊張が一九七八年以来の上昇を見せ、中国国内では同時多発的な反日デモ暴動が発生。日系企業・工場や日本車が焼き討ち略奪に遭い、日本車を運転する中国人が暴徒に襲われて瀕死の重傷を負う事件も起きた。

 だがこのときは、比較的日本重視の胡錦濤政権から習近平政権に代替わりする直前であり、また新たに政権の座に就いた習近平にとっては国内の政敵排除に力を注がねばならず、同時に日本側も政権交代があり、双方とも、すぐさま尖閣周辺でのアクションを行う余裕がなかった。だが、尖閣周辺に火種はくすぶったままあり、ほんの少しの油を注げばいつでも燃え上がる状況であった。

※新刊『赤い帝国・中国が滅びる日』重版出来記念。本文記事一部抜粋。

 

著者略歴

福島香織(ふくしま・かおり)

1967年、奈良県生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社大阪本社に入社。1998年上海・復旦大学に1年間語学留学。2001年に香港支局長、2002年春より2008年秋まで中国総局特派員として北京に駐在。2009年11月末に退社後、フリー記者として取材、執筆を開始する。テーマは「中国という国の内幕の解剖」。社会、文化、政治、経済など多角的な取材を通じて〝近くて遠い国の大国〟との付き合い方を考える。日経ビジネスオンラインで中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス、月刊「Hanada」誌上で「現代中国残酷物語」を連載している。TBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」水曜ニュースクリップにレギュラー出演中。著書に『潜入ルポ!中国の女』、『中国「反日デモ」の深層』、『現代中国悪女列伝』、『本当は日本が大好きな中国人』、『権力闘争がわかれば中国がわかる』など。最新刊『赤い帝国・中国が滅びる日』(KKベストセラーズ)が発売即重版、好評発売中。