突然二人の兄弟分を失い絶望の淵でシャブに溺れ、逮捕‼️【元ヤクザ《生き直し》人生録】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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突然二人の兄弟分を失い絶望の淵でシャブに溺れ、逮捕‼️【元ヤクザ《生き直し》人生録】

【塀の中はワンダーランドVol.5】「出せ、出さない」の押し問答

◼️犯罪を繰り返す生活、展望のない生き方

味気ない空虚な現実から活き活きと躍動する陶酔の世界へとスリップするのだ。注射器のブランジャーロッドを押し込み、体内にシャブを打ち込む当時のジャンキー時代を回想する著者

ボクはこのようにして、エス(シャブ)コカインを決めて犯罪に走るとき、まるで水を得た魚のように生き返っていた。白い悪魔の快楽によって……。このときばかりは、ボクの空虚な心は満たされていた。

しかし、薬が切れて、この一時の陶酔からだんだん現実世界へ引き戻され始めると、漠々としてヒビ割れ、乾いた大地が、ボクの心の中に無窮に広がり始める。この空虚な心はエスというフレンド以外では満たされることはなかった。

この頃のボクの日常はというと、常に何かの犯罪に関わっていた。

いつ、手首に冷たい手錠がガチャリと音を立てて食い込んでもおかしくなかった。警察や警察のOBで組織される警友会に身辺をマークされていないか、常に細心の注意を払っていたことから、気の休まる暇がなかった。

誰がリークしたのかその出処は不明だが、あるとき、ボクはH署の銃器班から拳銃2丁を隠し持っているのではとの嫌疑がかかり、数カ月もの間、総動員された警察OBやら現役警察官らから、動静を内偵されたことがあった。

またあるときは、田無署の薬物銃器班の連中が、ボクの生活圏にその影をちらつかせたこともあった。もちろん、所轄(しょかつ)の東村山署の四課(暴力団に関する事案を取り扱う刑事部捜査第四課。通称「マル暴」)や生活安全課からは常に監視下に置かれ、その目が光っていた。

しつこいのは、警察の手足となって情報活動を行い、跳梁する「警友会」のクソ連中だった。定年退職している連中の中には、ヨボヨボになった爺さん、婆さんもいる。その連中が水を得た魚のように手を替え品を替え、現役時代に身に付けた刑事特有のオーラを発しながら、躍起になってボクを追いかけ回してくるのである。

最初のうち、ボクはその忌々しい連中をからかい半分に巧みに煙に巻いて、ゲーム感覚で楽しんでいた。しかし、そんな日常がだんだんボクの心を虚しくさせていき、自分の生き方に嫌気を感じて、疲れ始めていた。ボクの目の前には、ただ無限に暗黒の闇が広がるばかりであった。

「そろそろ懲役が恋しくなってきたよ」

ある日、弟分の尚と鉄の二人に冗談めかしてこぼしたことがあったが、そんなボクの思いは一瞬、本気でもあった。犯罪を繰り返す生活、展望のない生き方に疲れを感じていたからである。このときボクは、心のどこかで家族を見捨てていたのかもしれない。

そんなボクが吐いた言葉を、天の神は聞いていたのだろう。そして神の執行部の面々が寄り集まり、「奴をしばらく獄の中へ放り込んでおけ」と衆議一決、お仕置きの決定が下されたのかもしれなかった。

『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)

  

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 2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!

 新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。

 絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!

 「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。

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さかはら じん

さかはら じん

1954年生まれ(本名:坂原仁基)、魚座・O型。埼玉県本庄市生まれの東京育ち。幼年 期に母を亡くし、兄と二人の生活で極度の貧困のため小学校1カ月で中退。8歳で父親に 引き取られるも、10歳で継母と決裂。素行の悪さから教護院へ。17歳で傷害・窃盗事件を 起こし横浜・練馬鑑別所。20歳で渡米。ニューヨークのステーキハウスで修行。帰国後、 22歳で覚せい剤所持で逮捕。23歳で父親への積年の恨みから殺害を実行するが、失敗。 銃刀法、覚せい剤使用で中野・府中刑務所でデビューを飾る。28歳出所後、再び覚せい剤 使用で府中刑務所に逆戻り。29歳、本格的にヤクザ道へ突入。以後、府中・新潟・帯広・神戸・ 札幌刑務所の常連として累計20年の「監獄」暮らし。人生54年目、獄中で自分の人生と向き合う不思議な啓示を受け、出所後、キリスト教の教えと出逢う。回心なのか、自分の生き方を悔い改める体験を受ける。現在、ヤクザな生き方を離れ、建築現場の墨出し職人として働く。人は非常事態に弱い。でもボクはその非常事態の中で生き抜いてきた。

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  • さかはらじん
  • 2020.05.27