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「日本の喜劇王」志村けんの死で終わりかねない、笑える性教育という文化

志村けんさん死去から3年。3月29日は命日

■志村けんがやっていたような下ネタを引き継ぐ人はいるか

 そんな流れのなかでの死、である。志村のセクハラ芸が「だいじょうぶだぁ」と見なされていたように、どの世界にも大物のベテランだから許されていた言動やパフォーマンスがある。その人が消えたり、力を失うと、もうやめましょうということになったりするわけだ。

 たとえば野球の大リーグでは昔、ボールにこっそり唾やクリームをつけて変化させるスピットボーラーという存在が黙認されていた。それが禁止されたあとも、その時点での使い手は引退するまで反則を許されたという。それと似たことが、芸能界にもあるのだ。

 そこで思い出すのが横山やすしで、バラエティのコメンテーターをやっているとき、素人女性の映像を見て「こんなん、パンパンやないか」と言ったことがある。終戦直後、米軍兵士相手に娼婦をしていた女性を指す言葉だ。司会の久米宏が謝っていたが、全盛期のやっさんだったからか、大きな問題にはならなかった。

 現役では、ビートたけしも治外法権的な場所にいる。その毒舌は内容以前に、それを言っても許されることのすごさであり、たけしの死後、憧れる若手たちがそのまま同じことを言っても、残念ながら叩かれるだけだろう。

 また、音楽において桑田佳祐がやっているような下ネタパフォーマンスも、彼だからよしとされている。ちなみに、サザンオールスターズのデビュー曲「勝手にシンドバッド」のタイトルは、志村が「全員集合」でやっていたギャグをデビュー前の桑田がパクッたもの。志村は「勝手にしやがれ」(沢田研二)と「渚のシンドバッド」(ピンクレディー)をくっつけて同時に踊るなどして笑いをとっていた。下ネタ好きの大物ふたりをつなぐエピソードである。

 で、話を志村の死に戻すと、これを機にポリコレ信者が絡んできそうな下ネタを避ける傾向がますます加速するのではないか。それこそ、ダチョウ倶楽部やタカアンドトシが志村とやっていたようなセクハラ芸に挑戦しようとしても「志村さんも亡くなったことだし、もうそういう時代でもないでしょう」とスタッフが二の足を踏みそうだ。

 とにかく、ポリコレは笑いの敵というほかない。自分はとんねるずの石橋貴明が嫌いだが、それでも彼が死んだとき、追悼映像では代表作である「保毛尾田保毛男」を絶対に流してほしい。ポリコレ信者は、イヤなら見なきゃいいだけのことだ。

 では今後、志村がやっていたような下ネタを引き継ぐ人はいるのか。じつは最近、こうした芸はマニアックな一発屋に近い芸人が担うようになってきた。お盆芸のアキラ100%だったり、エロソングのどぶろっくだったり。冠番組を持つクラスの人に、そういうものをやれる人がいないのは残念だが、そのうち世間の風向きも変わるだろう。しばらくはこういう人たちで回しながら、次の下ネタ王が登場するのを待とうではないか。

 志村けんもあの世から、それを楽しみに見守っているはずである。

文:宝泉薫(作家、芸能評論家)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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