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会社で大きなトラブルが起きたときこそ、火中の栗を拾うべし

小説家・江上剛が説く、40代ビジネスマンのための問題解決法

他人の評価はさておき
まずは目の前の問題解決を

「広報の役割というのは、事件や問題が起きた時にコメントを考えるだけではないでしょう。問題の核心がどこにあるかをつかんで、それを小さくできるものなら小さくして、処理ができるなら処理するべきではないでしょうか。受身ではなく、自分が主体的、主導的に関わり、解決を試みた方が、次の対策も打ちやすいと思います。それがリスク管理ではありませんか」と。
そして、「いつまでも私や、広報部が前面に出たりはしません。問題というのは、必ず落ち着く時は落ち着きますから、その時はそれぞれの役割に応じて担当部署が処理するでしょう。今は緊急事態です。その時はこういう出すぎた行為もお許しください」と言ったら、彼は怒りで震えていました。異動してきたばかりの部下にそんなことを言われたのですから当然です。

この時、銀行にとって一番重要だったのは、なぜ支店長が自殺をしてしまったのかという真相を解明することです。不正融資を行っていることは事実ですが、その全容はわかっていませんでした。その状態で、警察に発表されたり、マスコミに大きく報じられたりすると銀行にとっては非常にマイナスです。評判を悪化させるレピュテーションリスクが増大します。
「今、そこにある危機」がどの程度のリスクなのか、危機の本質を解明しなければわからないし、広報としてのコメントもできない。それが私の考えでした。いつまでも外部やマスコミに洩れないと考えてはいけません。少しでも時間を稼ぎ、その間にレピテーションリスクを極小化することだけに集中しました。それが本当に正しいことなのかどうかはわかりません。しかし、危機への対処は、その時考えられる最大のリスクを極小化することに集中することだと思います。たとえ他の問題は後回しにしても。

私の持論は、「何か問題が起こった時には、火中の栗を拾え」です。周りから傍観者的に見ていると、問題の核心が見えないから打つ手が遅くなるのです。けれど、早いうちに何とか勇気を持って問題の核心に入ってみる。そして火中の栗を拾ってみて、その問題が火傷するくらい熱ければ、もうそれはしょうがない。手を放すしかない。すなわち公表して処理を公に委ねるなどするべきでしょう。もう内部的には処理できないのですから。
いずれにしても、火中の栗、その問題が熱いかどうかということを自分で見極めないと、本当の処理はできないのです。

この自殺事件の数年後に起きる総会屋事件も含め、本当にさまざまな問題に直面しましたが、それらが発生した時には意外と冷静になり、自分がどう動かなくてはいけないかということを落ち着いて考えることができました。これは多くの火中の栗を拾ってみたからです。
火中の栗を拾う時、その時は、これを処理することによって何か自分にプラスになるかとか、出世ができるかとか、上からほめられるかとか、そういったことは一切考えてはいけません。

日本振興銀行の問題で記者会見をした時、旧知の記者から「江上さんは総会屋事件の時も火中の栗を拾われ、今回も破綻処理に当たっておられますが、ご自分でそのことをどう思いますか。非常に数奇な運命だと思いますが」と聞かれました。
運が悪いと言えばそれまでなのですが、「自分が今この立場でこの問題の渦中にいるということは、何か役割を期待されているのだと思いますので、それをきっちりと果たすだけです」と答えました。
問題が起きた時に、たまたま自分がその場所にいたら、その問題にどう対処すればいいのか、ということだけを考えるのです。評価されるかとか、逆に悪く言われるとか、余計なことは考えない。まさに禅の「一に帰る」の心持ちが大事ではないでしょうか。

<『50歳からの教養力』より抜粋>

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江上 剛

えがみ ごう

1954(昭和29)年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年に退行。1997年「第一勧銀総合屋事件」に遭遇し、広報部次長として混乱収拾に尽力。銀行員としての傍ら、2002年『非情銀行』で小説家デビュー。


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