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映画『オッペンハイマー』とナショナリズムのマグマ 山田風太郎著『同日同刻』を読む【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第12回 ナショナリズムのマグマ 『同日同刻』山田風太郎


何が起きるか予測がつかない。これまでのやり方が通用しない。そんな時代だからこそ、硬直してしまいがちなアタマを柔らかくしてみましょう。あなたの人生が変わるきっかけになる「視点が変わる読書」。連載第12回は、山田風太郎著『同日同刻』を紹介します。


ロバート・オッペンハイマー(1963年4月5日)

 

 

「視点が変わる読書」第12回 ナショナリズムのマグマ

 

◾️映画『オッペンハイマー』と山田風太郎の『同日同刻』

 

 2024年度のアカデミー賞7部門を受賞した話題作『オッペンハイマー』を見た。

 封切直後は連日満席と聞いていたが、2週間ほど経ったTOHOシネマズ日比谷の1620分からの回は67割の入りだった。IMAXⓇデジタルシアターで通常料金より700円高いことも観客が少ない理由だったのかもしれない。IMAXⓇにこだわったわけではなく、都合のいい場所と時間帯だったからなのだが、結果的にこの特別なシアターで見てよかったと思った。

『オッペンハイマー』には三つの時間軸がある。一つはオッペンハイマーがイギリス、ドイツに留学中から才能を発揮し、カリフォルニア大学、カリフォルニア工科大学の教授となり、科学者としてキャリアを積んでいく192629年、一つは研究成果が注目されマンハッタン計画のリーダーに抜擢されて原子爆弾の開発に成功する193645年、一つは「原爆の父」として栄光を手にするも、水爆の開発に反対したことにより公職追放され、失意の日々を送る戦後の194667年。

 この三つが交錯している上に、戦後の原子力委員会のルイス・ストローズとの対決場面は、オッペンハイマーの視点はカラー映像、ストローズの視点はモノクロ映像で進行するという複雑さで、最初のうちは何がどうなっているのか、よく分からなかった。ところが時間が経つにつれ、作品の中へ引き込まれていくように、展開が見えてきた。

 

マンハッタン計画 (1945年7月16日)

 

 見どころの一つは、1945716日にニューメキシコで行われた人類初の核実験「トリニティ実験」だろう。現地時間52945秒に爆弾は爆発した。衝撃波による大音響と爆発の光の色は、IMAXⓇシアターではまるで目の前で実験が行われているかのような臨場感だった。

 この実験には「大気が発火して地球全体が焼き尽くされる」可能性がゼロではなかった。にもかかわらず、ボタンは押された。人間は自らの手で滅亡への扉を開いたということだ。

 実験成功後、集会所に集まった研究所の職員たちが、興奮して足を踏み鳴らし、大歓声でオッペンハイマーを英雄として迎える場面を見た時は脅威を感じた。原子爆弾の開発はナチスドイツに対抗するためのものだった。しかし、この時すでにドイツは降伏していた。にもかかわらず原子爆弾の開発は進み、実験は成功した。アメリカはその爆弾を日本に使おうとしていた。

 しかし、ここで私たち日本人は思い出さなければならないことがある。

 太平洋戦争を始めたのは日本なのだ。

 

『同日同刻』は、太平洋戦争開戦の日、1941128日と終戦にいたる194581日から15日までの、同日同刻の記録である。敵味方の指導者、将軍、兵、民衆の姿を、著者の山田風太郎は自ら蒐集した膨大な資料を元に再現している。

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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