カンボジア・ベトナムで体験した「個人主義」と「強かに逞しく生きる力」【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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カンボジア・ベトナムで体験した「個人主義」と「強かに逞しく生きる力」【西岡正樹】

「生きる力」はどこから生まれるのか?

道路いっぱいに広がって走るオートバイの群れ

 

  

■欧米とは異なる「個人主義」がカンボジアやベトナムにはある

 

 カンボジアやベトナムの人たちの中にいると、欧米とは異なる徹底した「個人主義」が、人々の中に根付いているように見える。欧米の「個人主義」についても、私は旅を通して学んだのだが、欧米の人たち、とりわけ西ヨーロッパや北米の人たちは、自分と他者との距離感をとても大切にする。だから、自分の領域やペースは断固として守るが、他者の領域やペースもとても尊重する。だから、他者の領域を自分が犯しそうになると必ず言葉をかけ、言葉によって自分と他者との距離感をうまく調整していた。

 しかし、カンボジアやベトナムの人たちの行動は、むしろその逆で、相手との距離感をほとんど考えずに行動するのだが、相手が自分の領域に無断で入ってきても、それを許容できるのだ。その徹底した振る舞いは、それは、それは驚きに値する。

 私がカンボジアをバイクで走り始めた当初、目の前にやってくる数多くのバイクの動きは予測不可能で、それぞれがそれぞれのペースで動いているのに唖然とした。目の前はカオス状態なのだ。

 「いやぁー、これはどうすればいいんだ、俺は何を、誰を基準に走ればいいのだ」と思った。ところが、初めは慌てふためいていた私なのだが、いつの間にか誰かに合わせるというよりも、周りを観察しながら「自分のペース」で走り始めていたのだ。

 その時、私が納得したのは、「基準のないところに基準を求めればさらに混乱するだけだから、それぞれが周りを見てその中で自分なりにベストなものを選択して行動すればいいのだ」ということだった。そう思うと、目の前に起こる予測不能な出来事に対して、私の苛立ちが面白いほど小さくなっていった。

 それぞれがそれぞれのペースで行動するから、人と人の距離がとても近くなることもあるし、さらに人と人が交錯することも度々あるけれども、そこには言葉は存在しない。道路上では、自分の存在を知らせるクラクションがあるだけだった。

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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