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「渡辺まお」がAVで演じていた役柄とセックス 無知で愚かだった自分から逃げないために【神野藍】

神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第40回

 

【いつだって過去の自分は無知で愚かだ】

 

 引退してから自分が見えていた世界がいかに狭く、緩み切った価値観の中に浸っていたことを嫌と言うほど思い知った。SNSで流れてくる性被害や性暴力の話題を目にする度に、この社会は「人間を性的好奇心を満たす〈道具〉として扱ってもいる、または扱うことを良しとする考え」が深く根付いていると痛感し、それと同時に私もそれを助長した1人であるという罪深さを感じていた。

 2年間の間に生み出した200本近い映像たち。これまで作られてきたものの総数から比べたら大したことない数字ではあるが、私にとっては一つ一つ責任を取らなければいけないものたちだ。「ただ出演していただけ」「仕事だった」と言えばそれまでだが、そんな逃げのような向き合い方はしたくないし、「あなたがそんな意識を持つ必要はない」なんて甘い言葉もかけられたくないのだ。本当ならば何かを世に生み出す人間として持たなくてはいけない意識を持たずに、生み出してしまった無責任さを恥じているだけなのだから。

 だからといって、既に世の中に流れ出したものを無かったものにはできない。これまでの作品を取り下げたからといって、全ての業から逃れられるわけではない。私にできるのは、今後何かのスティグマを助長させるようなものに手を貸さないこと、そして自らについて正面から向き合い告白していくことだけだ。

 現在の自分からすれば、いつだって過去の自分は無知で愚かだ。「なんであんな馬鹿なことをしたのだろう」と過去について疑問に持つことぐらい誰だってあるだろう。それは仕方がないことで、大事なのは無知で愚かなまま人生の時間を歩まないように努力をすることである。過去に直接力を加えられたらどんなに良いだろう。しかしながらそんな術はない。我々ができるのは自らが下した過去の決断について、目を背けずに一つ一つぶつかり合い、しっかりとその意味を咀嚼し、これから先の時間に同じ行為を繰り返さないようにするぐらいなのだ。

 これから先も「ああしなければ」「こうしておけば」と悔やむことなんて必ず出てくる。そのときに都合の良い言葉で覆い隠したり、適当な言葉で取り繕ったりしないようにこの文章を書いている。40回の節目に、「自らの業から逃れるな」と自戒の意味を込めて。

 

(第41回へつづく)

 

文:神野藍

 

毎週金曜日、午前8時に配信予定 

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神野藍

じんの あい

文筆家。元AV女優。

1999年生まれ。2020年5月、早稲田大学在学中に渡辺まおとしてAV女優デビュー。2022年5月、現役引退後は、文筆家・タレントとして活動中。好きな本は谷崎潤一郎『痴人の愛』。趣味はトレーニング。

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