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個性は自分一人で作り上げるものではない 立川談春『赤めだか』で綴られた師弟の凄み【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第10回 『赤めだか』立川談春著


何が起きるか予測がつかない。これまでのやり方が通用しない。そんな時代だからこそ、硬直してしまいがちなアタマを柔らかくしてみましょう。あなたの人生が変わるきっかけになる「視点が変わる読書」。連載第9回は、立川談春著『赤めだか』を紹介します。


立川談春。「立川談春独演会2012 12ヶ月連続独演会」会見時(2011年12月12日 写真:産経ビジュアル)

 

◾️当代随一の落語家・立川談春との出会い

 

 127日、立川談春の独演会に行った。

 談春は今年芸歴40周年。記念興行として1月から10月まで、東京の有楽町朝日ホールで毎月二日間、独演会を行う。チケットを取りにくいことで知られる噺家だ。これはチャンス! とチケット販売サイトにアクセスしたら、すんなりゲットできた。

 127日は昼と夜の部があり、昼の部に行ったのだが、会場は当然のごとく満席だった。ちなみに初日は113日で、演目は『道潅』『明烏』『鼠穴』だったという。

 私が初めて談春の落語を聴いたのは2003年の年末だった。文芸評論家の福田和也さんから「面白そうな落語家がいるから聴きにいこう」と誘われて行ったのが、東京のお江戸日本橋亭。座敷席の後ろにパイプ椅子が並ぶ80席ほどの小屋だった。福田さんお目当ての談春の演目は『桑名船』と『札所の霊験』。その頃、私は落語を聴いたのは二、三回という超のつく初心者で、『桑名船』は笑えたが、『札所の霊験』はオチもないし、さっぱり分からない。困惑している私をよそに、福田さんは「凄い! 凄い!」と興奮しまくり、その後すぐ、噺好きの友人や編集者を誘って談春詣を始めたのだった。

 時々お供をし、築地本願寺のブディストホール、新宿紀伊國屋ホール、池袋芸術劇場、横浜にぎわい座などに足を運びながら、私は少しずつ落語の世界に入っていった。

 今思うと実に幸運な入り方であったと思う。今のようにYouTubeで気軽に落語を楽しめる時代ではない。落語に興味を持ったら、まずは寄席でも行ってみようか、ということになる。ところが寄席というのは興行の場であると同時に、落語家の修業の場でもある。前座や二ツ目が高座に上がるのだから、上手いとはいえない落語を聴かされることもある。それを聴いて、「何だ落語って、つまんない」と、落語への興味をなくしてしまう人もいるのではないだろうか。

 ところが私は尊敬する文芸評論家が「とてつもない才能を秘めた噺家!」と見込んだ談春がまさに登り龍のごとく上昇していく時代に遭遇し、その落語を聴きながら落語の世界に入っていくことができたのである。

毎回毎回、気概の漲る落語を聴きながら私は「落語って、面白い!」ではなく、「落語って、とてつもない!」と驚嘆しないではいられなかった。

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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