大局観のないリーダーの特徴は〝読書量が足りない〟 本屋こそ日本の文化と精神の拠点(『本屋を守れ 読書とは国力』藤原正彦著)【緒形圭子】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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大局観のないリーダーの特徴は〝読書量が足りない〟 本屋こそ日本の文化と精神の拠点(『本屋を守れ 読書とは国力』藤原正彦著)【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第6回  本屋こそ日本の文化と精神の拠点〜『本屋を守れ 読書とは国力』藤原正彦著

  

◾️大局観のないリーダーの端的な特徴は〝読書量が足りない〟

 

 英語で書かれた数学の専門書を読み続け、数学者として大成した藤原さんだが、小学校の教育は「一に国語、二に国語、三、四がなくて、五に算数」と、国語力、特に読みの強化を訴えている。「小さい頃に『読み』を徹底して、先人の知恵に学び、また、個人では経験できないさまざまな感動に涙を流す。これなくして教養は育ちません。それをせず、大人になって流行の思想とかを追いかけても、頭でっかちになれても本当の教養人にはなれない」と、「自ら本に手を伸ばす子供を育てる」ことを主張しているが、それは自身の子供時代の読書体験に基づいている。

「私は政治、経済、教育などについて、本に書いたりしばしば講演で話したりするが、高邁な思想からではない。児童書『クオレ』により吹き込まれた情緒から語っている」。

 さらに、私がこの本の中でいちばん好きなところなのだが、数学者の藤原さんが文学作品を読むことの大切さを説いてくれている。

 私は小さい頃から物語を読むことが好きだったので、その気持ちに正直に、大学は文学部に進んだ。1980年代はまだまだ文学部は人気があり、志望する同級生も多かった。

 ところが今日本では大学の文学部を廃止するということが論議されており、高校の現代国語からは文学作品がはずされた。文学は社会で役に立たないと判断されたのだ。

 しかし、藤原さんは言う。

「詩や小説や伝記や物語を読み、貧しい境遇の人びとに共感し心を痛め、大きな志をもって立つことの素晴らしさに胸を打たれ、強者に立ち向かう勇気や自己犠牲、友情や惻隠の情に感激する。こうした経験こそが人間を人間たらしめる『情緒』を生む」。

 さらにこの情緒は社会にとって重要な判断力や大局観の中核になるとして、次のような話をしている。

「大局観のないリーダーの端的な特徴として、たとえば中国の歴代指導者を見ると皆、理系出身ですよ。江沢民(上海交通大学電気機械学部)、胡錦濤(清華大学水力エンジニアリング学部)、習近平(清華大学化学工学部)と、理系の系譜が続く。ドイツのメルケル首相も専攻は物理学で、遡るとイギリスのサッチャー首相も化学です」

「理系の多くは読書量が足りていません。したがって、論理的に考えられても大局観に欠けるケースが多い。こうなると『対症療法』しかできません。全体を大局的に見て判断することができませんから、国のリーダーには不向きです。(中略)

 潤いのある社会をつくるのは惻隠の情などの情緒であり、情緒は読書体験から生まれる教養から生まれるのです。教養とは、論理の暴走を抑制するブレーキでもあるのです。

 ところが教養のないリーダーが、極端な政策ばかり取っている。いまドイツが移民問題で混乱しているのも、論理で突っ走った結果です。PCおよび労働力不足の解消という、近視眼的な論理です。メルケル首相は二〇一五年九月、オーストリアやハンガリーから入国を拒否されたシリアやアフガニスタンからの難民を受け入れました。『難民受け入れに上限を設けるような国は私の祖国ではない』と大見得を切った彼女を、PCに酔いしれた世界中が大歓呼で絶賛しました。

 結局どうなったか。ドイツ国内に難民が溢れ、二〇一六年、メルケル首相は難民政策の失敗を認めて方針転換しました。美しい論理だけで大局を見ない、典型的な理系リーダーの暴走です」

 ここを読んだ時、私は快哉を叫びたくなった。

 文学、紙の本、町の書店、世の中が不用だと思っているこれらのものこそ、私たちには必要なのだということを、『本屋を守れ』は教えてくれている。

 

文:緒形圭子

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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