終戦・原爆モノは役者の人生を変える。三浦春馬が戦後75年の節目に「太陽の子」をやった意味【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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終戦・原爆モノは役者の人生を変える。三浦春馬が戦後75年の節目に「太陽の子」をやった意味【宝泉薫】

 

「夢千代日記」(81年・NHK)はそんな女優と物語の相性がピタリとハマった作品。吉永小百合が原爆症で余命宣告された温泉芸者を儚くもたくましく演じ、続編も二度作られた。いわゆる「サユリスト」と大人の演技を期待する層の両方を満足させられる作品でもあり、大女優としての後半生がここから始まることに。また、彼女はその後、原爆詩の朗読をライフワークにするなど、平和運動に力を入れるようになった。

 吉永に限らず、評価や受賞などにつながりやすいのがこの手のモノの旨味でもある。それをブレイクの追い風にしたのが、二宮和也だ。

 06年公開のハリウッド映画「硫黄島からの手紙」で主役の渡辺謙に次ぐポジションに起用され、注目された。まだ顔も見ていない我が子に会うため、生きて帰ることを願うパン職人の一等兵と、渡辺扮する有能な指揮官との交流は物語の軸といえるもの。この時期に嵐は国民的グループへと駆け上がっていくが、二宮が若手演技派としての片鱗を示したことも大きかった。

 なお、彼がいきなりあれほどの大作に起用されたのは、いかにも戦前の日本にいそうな容姿や雰囲気も決め手だったのだろう。その後、戦争モノは彼の得意分野にもなっている。昨年はドラマ「潜水艦カッペリーニ号の冒険」(フジテレビ系)でイタリア人の捕虜たちと友情を育む海軍軍人を演じたり、映画「ラーゲリより愛を込めて」でシベリア抑留中に病死するものの、その遺書が脚光を浴びることになる陸軍兵を演じたりした。

 かと思えば、戦争モノが生き残りの大事な拠りどころになった人もいる。アニメ映画「この世界の片隅に」(16年)で主人公の声を演じたのん(元・能年玲奈)だ。

 NHKの朝ドラ「あまちゃん」(13年)で大ブレイクを果たしたものの、大手事務所からの独立を強行。トラブルとなり、本名でもある芸名を使えなくなった。16年7月から「のん」の名で活動を開始したものの、メジャーな仕事からは干されてしまう。

 しかし、改名から4ヶ月後に公開されたこの映画によって、彼女は救われることに。クラウドファンディングで制作され、ミニシアター中心の上映だったにもかかわらず、ロングランとなったからだけではない。主人公の姿が彼女の置かれた状況にも重なり、ファンの庇護意識を高めたからだ。

 というのも、主人公はどこか不思議ちゃん的な少女で、嫁いでからもおっちょこちょいな失敗をしたり、原爆で家族を失ったりしながらも、明るく強く生きていく。それは仕事を干されても地道に頑張るのんの状況にも通じるもので、ファンは同情とともに、やっぱり彼女こそが最高なのだ、応援していかなくてはという思いを新たにした。

 また、NHKはこの映画をとっかかりにして「あちこちのすずさん」というプロジェクトを展開。彼女が演じた主人公のように戦争を経験した女性たちのエピソードをテレビで紹介するもので、彼女もナレーションを務めたりした。たとえ声だけでも、彼女が地上波の番組に呼ばれることは珍しいため、これは本人にもファンにもありがたかっただろう。独立トラブルから10年近くたっても、なんとか生き残っていられるのは、戦争モノで結果を出せたことも大きい。

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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