ChatGPT などAI開発は停止すべき!? 「シンギュラリティ」の何が脅威なのか【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ChatGPT などAI開発は停止すべき!? 「シンギュラリティ」の何が脅威なのか【仲正昌樹】

 

■フェイク・ニュースとプロバイダーと“AI倫理専門家”たち

 GPT-4が従来の言語モデルより遥かに巧みに人間を真似ることができるようになれば、フェイク・ニュースや扇動的プロパガンダの影響が深刻化する可能性はある。しかし、(少なくとも私たちの知っている現在の)AIには、人間を騙して、操ろうとする動機はない。AIが巧みなフェイク・ニュースが作るとしたら、それをやらせている人間がいる。人間の作文だろうが、AIの作文だろうが、そういうものがネットの中でチェックされないで流布していることが問題なのだから、まずは、プロバイダーであるツイッターやFacebookが改善努力すべきであり、AIのフェイク製造能力を問題にするのは、本末転倒している。 

 欧米の政府が気にしているのは、それらとは違って、セキュリティやプライバシーの問題、つまりGPT-4がどこから情報を取得しているかという問題だ。これも確かに重要だが、AIの表現能力とは直接関係がない、むしろTik tokなどのセキュリティ・クリアランスと同じ系統の問題だと思われる。「シンギュラリティ」と関係しているかのように報道されると、議論が混乱する。

 自民党のAI国家戦略も、冒頭からChatGPTによる社会の急速な変化に言及しているが、あまりシンギュラリティへの危機感のようなものは強調していない。今度こそ世界的トレンドに乗り遅れないにしよう、という経済政策的な視点が前面に出ている。とにかく勉強しましょう、というだけなので、さほど面白みはない。

 国会で「シンギュラリティ」の倫理をめぐって政府への質問がなされ、どういう知的裏付けがあるのか分からない“AI倫理専門家”たちが、最先端の知識人としてマスコミやネットに跋扈する状況を想像すると憂鬱になる。無駄で、恐らくは有害な“チャット”を必要以上に増やさないためには、「GPT-4問題」のタイトルの下で、全くレベルが異なる問題が語られていることを認識し、論点整理する必要があるだろう。

 

文:仲正昌樹

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✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著

『人はなぜ「自由」から逃走するのか:エーリヒ・フロムとともに考える』(KKベストセラーズ)

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、
全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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