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【PCを捨てよ、カフェに立とう】〜ライターが喫茶店のマスターをやってみて気がついた「6つの教訓」〜

筆者がカフェのマスター体験をしてわかったこととは・・・

 

3.ワーケーションは、結構できる

  出発前に一番心配していたのは、デメリットとして挙げたとおり「週に2日も喫茶店をやったら、疲れて普段の仕事に支障がでるのではないか」ということだった。

 しかしこれは杞憂に終わった。というのも、どうやら喫茶店の営業に使う体力・神経と、パソコン作業、ライター仕事に使う体力・神経とはほとんど被っていないようなのだ。

 喫茶店を営業した日はさすがに肉体的に疲れているので、ライティングのような集中力が必要な仕事は手に付かない。一方で店に立った夜はぐっすり眠れ、翌日には完全に体力が回復していたので、喫茶店が非番の日の書き仕事は東京にいるとき以上にはかどった。

 普段の書き仕事とは違う、接客の神経を使うことで精神のバランスが取れたのかもしれないし、半日の立ち仕事や最寄りのスーパーまで自転車で25分の環境で、普段の何倍も身体を動かしたことがよかったのかもしれない。なんにせよ、普段PC作業が多い人は、たまに立ち仕事をすると確実に健康にいい。

 

4.コワーケーションも、結構できる 

 この滞在で上記のように実感し、私自身の勉強になったことは間違いないが、どうやら地域の人たちにも私の滞在を楽しんでもらえたようだ。

 単純に、普段カフェの定休日の月曜・火曜しか西和賀町に来れないお客さんから「ようやく気になっていたカフェに来れた!」という喜びの声をもらったし、カフェのアルバイトの子に私のライター仕事を手伝ってもらい、普段と違う仕事を楽しんでくれていた。

 ネビラキカフェオーナーの瀬川さんご夫婦も、いつかやりたいと思っていた「カフェを運営してもらうことで、町外の人を呼び込む」ゲストカフェの企画を初めて実現でき、いろいろと知見が溜まったらしい。(ゲストカフェはこれからも定期的にやっていきたいようなので、この記事を読んで興味を持った方は連絡してみてほしい)

 せっかく長く滞在するからには、仕事を通じて地域の人たちと交流したほうが楽しい、という当初の見立ては当たっていたと思う。

 

5.人は、仕事のある土地に住む

 このようにいろいろなことを体感した滞在だったが、一番大きな発見は「リモートワークの限界」を知れたことだ。それを教えてくれたのは、フリーライターとしてのクライアント企業の担当者K氏だった。

 喫茶店の営業にも慣れ、「せっかく豪雪地帯にいるんだから、このまま冬を経験してもいいなぁ」なんて呑気に考えながら、その日はカフェをお客さんとして利用して書き仕事をしていた時、K氏から電話があった。曰く「カイさん、うちの会社の別の部署がライターを探しているんですが、紹介してもいい?」とのことで、私は「もちろんです~!ぜひぜひ~」などと軽快に答えながら、内心では「あー、今回の滞在はここまでだな」と、その瞬間に悟った。

 この仕事を受けるためには、もちろん東京に帰らなければいけない。初めて仕事を頼もうという相手が「ごめんなさい!今岩手にいるんで、取材には同行できません」と言ったら、私なら「あ、じゃあまた次の機会にお願いします」とか言って他のライターを探す。

 それによく考えてみると、すでにある程度信頼関係ができている仕事相手も、初めのうちこそ私が直接出向けなくても我慢して仕事をくれるかもしれないが、それが何度も続くと「あの人、仕事はいいんだけど、何かと不便なんだよな」ということで依頼は減っていくだろう。

 コロナ禍がきっかけだったとは言え、リモートワークが進んだこと自体はいいことだと思うが、結局リモートでの打ち合わせは、「いざという時には直接会える」という前提の上での、ビジネスライクなやりとりでしかない。

 ライターのようなパソコン上で完結するような仕事の場合、「いまやっている仕事」は、インターネットさえあれば地球上どこにいてもできるだろう。けれども「これから来る仕事」は、実際にはZoom越しでしか会わなかったとしても、少なくとも会おうと思えば実際に会えるような人にしか依頼が来ない。

 そして、私が収入を得ている、出版や広報といった広い意味での情報産業は、東京の地場産業だ。つまり、私の仕事は東京にある。

 だから私は東京、あるいは気軽に東京に出てこれる場所(せいぜい往復の交通費が5,000円程度)にしか住めない。往復の交通費が30,000円近くかかる岩手に住んでしまっては、東京の仕事を収入の基盤にはできない。相場通りのインタビューまとめのライティングなら、取材のための交通費だけで赤字になりかねない。

 なるほど、結局のところ人は、仕事のある土地に住むものなのだ。

 

6.PCを捨てよ、カフェに立とう

  というわけで長々と、珈琲好きのライターが喫茶店をやった結果得た思索を紹介してきた。普段とは違う場所で、違う仕事をしたことで、「生活とは何だろう」「仕事とは何だろう」という問いに対して、自分なりに新たな見解が生まれた、とてもいい経験だった。

 私のように、「会社の仕事さえしていれば、1~2ヶ月オフィスに来ないで副業していても文句を言われない」みたいな境遇にいる人はまだまだ少数だろうが、残念ながら縮小していくであろう日本の経済状況では、企業も生き残りのために、副業やワークシェアをどんどん広げていくはずだ。

 自分自身がその対象になった時、興味のある仕事の体験としてアルバイトをしたり、それこそ空いた時間で勉強(リスキリング)をするのも悪くない。

 さらに一つの選択肢として、私がした(正確には「させられた」だが)ように馴染みの喫茶店に話をつけてみたり、お金があればレンタルキッチンなんかを借りて、お金がなければ道ばたでレモネードでも売って、ほんの小さな事業の真似事をしてみるのはどうだろうか。会社の歯車として働いているだけでは見渡せない、「事業を運営する」ことの難しさと楽しさの一端に触れることができるはずだ。

 

協力:ネビラキカフェ

https://www.nebiraki.world/cafe

 

文:甲斐荘秀生

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甲斐荘秀生

かいのしょう ひでお

ライター

東京都出身。東京大学工学部化学システム工学科を卒業、同大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻修士課程を修了。会社勤めと並行して、出版や広報の分野でライターとして活動するほか、舞台の音響スタッフをしてみたり、喫茶店のマスターをやってみたりと、誘われたことにフットワーク軽く乗ってみる性分。「道に通じた人から見えている景色を、必要とする人にわかりやすく伝える」がライターとしてのモットー。

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