【PCを捨てよ、カフェに立とう】〜ライターが喫茶店のマスターをやってみて気がついた「6つの教訓」〜 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【PCを捨てよ、カフェに立とう】〜ライターが喫茶店のマスターをやってみて気がついた「6つの教訓」〜

岩手にある喫茶店「ネビラキカフェ」店内の様子

 

■Plan、Do、Check。(Actionは別の物語)

 ここからは2021年の10月~11月にかけて週2回、計10日間喫茶店を営業した報告になる。

 

●準備(Plan)

 カフェのオーナー・瀬川さんの最初のコメントから数十分後には「やります」と返事をした私は、そこから諸々の準備に取りかかった。

 まずは仕事関係の調整だ。勤め先の社長および、フリーランスの仕事をよく依頼してくれる2社の担当者さん、計3名に「すみません、1~2ヶ月ほど岩手で喫茶店のマスターをやるので、その間はリモートでの対応になります」と報告したところ、全員が「おお、それは面白そうですな。ぜひ楽しんできて」と快く送り出してくれた。持つべきものは心の広い上司(に相当する人)だ。

 ちなみにこの時相談した3名のうち、勤め先の社長および片方の会社の担当者K氏は、後に私の営業時にカフェに足を運んでいる。来ていないのはベストセラーズのS氏だけだ。次回の営業の際にはぜひお待ちしています。

 

 もうひとつの準備はメニューの開発だ。

 普段豆を注文している珈琲豆焙煎店に協力してもらい、ホットコーヒー用の豆を3種類、アイスコーヒー用の豆を1種類、ホットカフェオレ用の豆を1種類、アイスカフェオレ用の豆を1種類、計6種類の豆を選定した。どれも納得するまで試飲を繰り返した、拘りの豆だ。

 またメニューにアクセントをつける意味で、学生時代に得意だった自家製ジンジャーエールのレシピを思い出したりもした。

 

  • 喫茶店の営業(Do)

 今回ホストをしてくれた「ネビラキカフェ」は、岩手と秋田の県境の岩手側、奥羽山脈の山間にゆらめくダム湖・錦秋湖を臨む、景勝地としては絶好のロケーションにある。ドリンクだけでなく手作りのチーズケーキやランチも美味しい、地元では貴重な憩いの場だ。私が喫茶店を開いた時期はちょうど紅葉への移り変わりが楽しめる時期で、地元客だけでなく多くの観光客も立ち寄っていた。

 

ネビラキカフェのテラス席から臨む、秋の錦秋湖

 

 このロケーションのおかげで、間借りしただけの私の喫茶店でも、普段の定休日である月・火に開いているだけで一日15~20人くらいのお客さんに恵まれ、平均13,000円/日くらいの売り上げがあった。ドリンクは私が持ち込んだ豆を使って提供し、フードはカフェで元々出していたケーキなどを提供した。

 人手が足りない時は、普段カフェでアルバイトをしている人たちに助っ人を頼んだ。暇な日でもなんだかんだ30分おきくらいに客が来るので、「あー、客来ないなー。仕方ない、原稿でもするか」みたいな小芝居をする余裕はほとんどなかった。

 

  • 振り返り(Check) 

 10月頭から11月頭までの約1ヶ月間で計10日間のカフェ営業をしてみたわけだが、そこで体感したことをまとめると、次の6項目になる。ここまでですでに4500字くらいあるが、まだまだ折り返し地点。なんとここからが記事の本題だ。

 

1.客単価が大事・人を雇うって大変

 先に書いたように、私の営業日の一日の売り上げは平均して13,000円程度だったが、このうちの3割はカフェ側が用意したケーキの売り上げで、私の用意したドリンクの売り上げは大体9,000円程度だった。

 ここから仕入れ代などを引くと7,000円、時給1,000円のアルバイトに4時間入ってもらうと、私の手元に残るのはたったの3,000円だ。準備/撤収作業を含めると一日6時間くらいはカフェの仕事をしていたから、時給換算で500円。マスターよりアルバイトのほうが稼いでるじゃないか!

 それでも、もしケーキも私が作ったならアルバイトと同程度の時給にはなっただろう。普段のネビラキカフェのようにランチも提供すれば尚更だ。

 結局のところ、来客数を増やすのには長い期間がかかるし、客が増えるとそれだけフロア担当のオペレーションが増えるので、1人当たりの客単価を上げる努力をしたほうが早く売り上げに結びつくだろう。なるほど、巷の喫茶店がケーキやランチを提供していたり、2杯目の珈琲を値引きしたりするはずだ。

 以上をまとめると、喫茶店は珈琲だけオーダーされても、売り上げの面では大して嬉しくないので、何かしら追加でオーダーしてもらって客単価を上げる必要がある、ということだ。

 また、アルバイトとは言え人を一人雇うのがどれだけ難しいことかも実感した。これからは、好き勝手を許してくれている社長に少しは優しくしようと思う。

 

2.手間のかかることはなるべくしない

 「準備」の項目に書いたとおり、現地には6種類の豆を持っていき、それぞれホットコーヒー3種類、アイスコーヒー、ホットカフェオレ、アイスカフェオレと使い分けたのだが、これは大失敗だった。

 よく考えてみるとホットとアイスのカフェオレで豆を変える必要なんてないし、アイスコーヒーもカフェオレと同じ豆で済むならそれに越したことはない。これをまとめて一種類にするだけで準備の手間が劇的に減る。素人らしい無意味な拘りだった。

 ホットコーヒーは3種類すべて同じ価格で提供し、注文後に豆を挽いてハンドドリップしたが、豆によってドリップの仕方を変えていたこともあり、一度に別の種類の豆を注文されるのは本当にストレスだった。両手にポットを持って、「こっちの豆は高温であっさり淹れる、こっちの豆は低温でじっくり淹れる」を同時にやるなんて、ほとんど曲芸だ。

 なるほど世の喫茶店では、一番安い「ブレンド」というメニューがあり、「キリマンジャロ」とか「モカ」みたいな産地の名前がついたメニューは100~200円高くしていることが多い。豆の値段なんてよほどの高級豆でないと一杯1020円くらいの差だろうに、そんなに値段に差をつけるものか?と疑問だったが、いまならその気持ちが分かる。あれは「淹れ分けるのが面倒だから、できればブレンドを頼んでくれ!でなければ、ちょっと割高に払え」という意思表示だったのだ。

 

 このように、喫茶店を運営する上でのノウハウがいろいろと溜まったので、今回の滞在は「リスキリング」の目的ではまずは成功と言っていいだろう。

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甲斐荘秀生

かいのしょう ひでお

ライター

東京都出身。東京大学工学部化学システム工学科を卒業、同大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻修士課程を修了。会社勤めと並行して、出版や広報の分野でライターとして活動するほか、舞台の音響スタッフをしてみたり、喫茶店のマスターをやってみたりと、誘われたことにフットワーク軽く乗ってみる性分。「道に通じた人から見えている景色を、必要とする人にわかりやすく伝える」がライターとしてのモットー。

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