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ウクライナ戦争を対米自立の契機とせよ!【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」48

 

◆国際秩序にたいするわが国の立ち位置

 20世紀前半、わが国は「欧米列強による植民地支配」という当時の国際秩序を、まったくもって便利ならざるものと見なしました。

 近衛文麿の表現を借りれば「正義人道に反するもの」とまで見なしたのです。

 それに代わる地域覇権を確立しようと打って出たのが、日中戦争に始まり、太平洋戦争(大東亜戦争)にいたる「昭和の戦争」。

 

 ついでにこれは、欧米、とくにアメリカやイギリスの掲げる自由民主主義よりも、権威主義的な国家主義、ないし全体主義のほうが優れているという発想に基づいたものでもありました。

 自由民主主義が幅を利かせた時代は、世界恐慌によって過去のものとなった!

 「昭和の戦争」が始まった1930年代には、そんな風潮が支配的だったのです。

 

 すなわち戦前の日本は、自由民主主義の優越に挑戦する形で、国際秩序の現状を破壊、世界の多極化をめざしたことに。

 プーチンやドゥーギン、あるいは習近平が拍手喝采しそうですが、結果は無残な敗北に終わりました。

 

 挫折体験がよほど強烈だったのでしょう、戦後日本はきれいに真逆の道を行く。

 自由民主主義の優越を絶対視したうえ、それをアメリカの覇権と同一視、〈極東現地妻〉として追随していれば間違いないとばかり、対米従属を決め込んだのです。

 

 いえ、いいんですよ。

 そのような振る舞いが国益の追求と合致するのならば。

 現に1945年の敗戦から、1989年に昭和が終わるまでの40年あまり、対米従属はわが国に平和と繁栄をもたらしました。

 

 しかしその後は雲行きが怪しくなる。

 アメリカ一極支配のもと、新自由主義型グローバリズムが全盛期を迎えたこともあって、従属は貧困化や格差の拡大をもたらすようになったのです。

 2010年代に入り、アメリカの覇権が後退するにいたるや、従属が平和の維持を保障するかどうかすら、そう自明ではなくなってきた・・・

 

 以上の経緯、ないし歴史認識を踏まえるとき、わが国にとって便利な国際秩序とはどのようなものか。

 

 「権威主義にたいする自由民主主義の優越」は望ましいでしょう。

 敗戦いらい、わが国では自由民主主義がすっかり定着しています。

 戦前においても、近代国家としての地歩を築いた明治の終わりあたりから、国家主義志向が台頭する昭和初期までの間は、自由民主主義を肯定する風潮が強かった。

 権威主義より自由民主主義のほうが、国民により多くの権利を保障するのを思えば無理からぬこと。

 

 しかも現在、日本周辺で地域覇権の確立をめざしている中国とロシアは、ともに権威主義体制。

 自由民主主義の優位を否定するのは、この点でも便利ではありません。

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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