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ウクライナ戦争を対米自立の契機とせよ!【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」48

3月25日、プーチン大統領は同盟関係にあるベラルーシに戦術核兵器を配備することで合意したと発表。

 

◆現状はどこまで便利なのだ?

 ウクライナ戦争をめぐっては「国際社会がこぞってロシアを非難、ウクライナを支援しているにもかかわらず、プーチンが意地になって攻撃を続けている」ようなイメージがありますが、これも十分に正しくありません。

 作家の一田和樹が「ウクライナ侵攻1年、世界の半分以上はウクライナを支持していない」(ニューズウィーク日本版、202336日)で指摘するとおり、それは先進国、いわゆる「グローバル・ノース」の間でのこと。

 「グローバル・サウス」、途上国の大半は、ウクライナへの武器供与や、ロシアへの制裁といった支援行動とは無縁です。

 国の数や人口から言えば、こちらのほうが多いのですぞ。

 それどころか、ロシアとの関係を深める国まで見られる始末。

 

 お分かりですね。

 グローバル・サウスは現在の国際秩序において割を食いやすいので、現状維持を大して「便利」だと思っていないのです。

 だから「守護」にも(積極的には)動かない。

 要はただ、その現状なるものの如何にあり!

 まさに至言ではありませんか。

 

 メリッサ・チャンを悲しませた「岸田と習の落差」にしても、こうなると「日本は〈善の国〉へと向上したのに、中国は〈悪の国〉に転落しつつある」とばかり解釈することはできなくなる。

 日本は国際秩序の現状を非常に便利だと思っているが、中国はそう便利だと思っていない。

 じつはそれだけのことなのです。

 

 けれども国際秩序の現状は、わが国にとって本当にそこまで便利なのか?

 

 この点を考えるには、くだんの秩序が持つ性格について、きっちり整理しなければなりません。

 すでに述べたとおり、ここには「権威主義にたいする自由民主主義の優越」と、「米欧、とくにアメリカの世界的覇権」という二つの側面が見られるからです。

 

 二つの側面は、重なり合ってこそいるもののイコールではない。

 覇権の維持にとって不都合だと判断したら最後、アメリカはしばしば強権的な姿勢に出ています。

 近年における代表例は、むろんイラク戦争。

 2007年、ミュンヘンで開かれた国際安全保障会議に出席したプーチンが「(一極支配には)民主主義との共通性など全くありません」とイヤミを言ったのにも、相応の根拠があるわけです。

 

 国際秩序の守護は、(自由)民主主義の守護を必ずしも意味しない!

 メリッサ・チャンにとっては、いよいよ便利ならざる話になってきましたが、これは日本にとって何を意味するのでしょうか?

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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