ネット社会が生み出した “日本の影の支配者=統一教会” という虚像【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ネット社会が生み出した “日本の影の支配者=統一教会” という虚像【仲正昌樹】

 

■騒動で露わになった「サヨクたちの雑な思考スタイル」

 

 サヨクたちの、「いやなものは何でもトーイツ」がいろんなところに伝染しているようで、本当にいやになる。私がテレビに出演した時に、統一教会の教義について説明しようとすると、やたらと、「話が長い」「頭に入ってこない」「これで教授!」「金沢大学大丈夫?」「まだマインド・コントロールが…」、としつこく誹謗中傷する集団が湧いて出る。中には、「テレビで教義について語る仲正は危険だ」とまで言い出す奴もいる。この手の連中は、教義のことなどどうでもいいから、とにかく「トーイツ」の悪口を言いたいのだろう。彼らは、どういう教義を信じ、実践しているのが、統一教会の信者なのか理解しないまま、いや、理解するつもりもないまま、自分たちが憂さ晴らしのために攻撃したいものを、「トーイツ信者」と呼んでいるだけだ。そうでないというなら、統一教会信者が何を信じて、どういう行動をする傾向があるのか理解する努力をすべきである。そういう努力をしないで、「統一は…」と言っている人間は、雑なサヨクたちの「=」思考に同調しているだけだ。

 

 ②についても、最近のマスコミ報道には短絡的な誤解がある。旧統一教会は、共産主義などの唯物論をサタンの思想と見て克服しようとし、伝統的な意味での「家族」形体を重視し、国や郷土を愛すべきという発想をしているので、自民党など保守系の政治思想と共通点が多いのは当然である。共産主義をサタンの最後のあがきを表す思想と特定している点を除いては、神道など他の宗教とも共通するところは多い。

 彼らは、自分たちの理想に近いことを言っている議員を支援しているのである。それを統一教会が自民党の政策を決めているというのは、見当外れだ。統一教会が自民党の政策を決めているというのであれば、少なくとも、統一教会がアプローチして、選挙支援などを行うようになった「後」で、掲げている政策が明らかに変化し、急に過激な保守になった議員が多数にのぼることを立証しないといけないが、そんな証拠はあがっていない。

 例えば、改憲や自主防衛力強化は、自民党が結党以来言っていることである。自民党の結党は一九五五年で、この時期には、統一教会の日本宣教がようやく始まったばかりで、政治家にアプローチする余裕などなかった。政治運動団体である勝共連合を創設するのは、一九六八年である。自民党にはハト派も多く、自主防衛力強化のための改憲に党全体として一致して取り組める体制になっていなかったので、統一教会-勝共連合が、タカ派にアプローチし、協力関係を築こうとしたのである。

 ごく普通に考えれば、ソ連などの旧社会主義諸国の抱える構造的問題が露呈し、中国や北朝鮮の軍事的脅威が深刻化する、といった時代の変化と共に自民党の中のタカ派の勢いが強くなったのであって、統一教会のおかげで、そうなったのではない。統一教会としては、当然、それを自分の手柄のように語りたいし、教団内ではしばしば、そういう言い方をして信者を勇気付ける。現在のマスコミや反統一教会のネット世論は、そういう統一教会側の内外向けの自己PRを真に受けているかのようで、元信者である私にとっては、全くもって倒錯しているように見える。彼らは、こういうネガティヴな騒ぎさえなければ、統一教会が宣伝したいと思っていた妄想的な手柄話を、ほぼなぞっているのである。

 教育や家族関係については、統一教会が牛耳っているのではないか、という人もいそうだが、既に当該の議員たちが反論しているように、彼らのほとんどは、統一教会と付き合う前から、子育て、夫婦関係について保守的な考えを持っていたと思われる。そもそも、もともとそういう考えをしていなかったら、信者でもないのに、自分の主要政策で、統一教会の言い分をそのまま取り入れたりしない。最初に述べたように、統一教会の信者数はどんなに多く見積もっても十万人である。そんなミニ教団のために、自分の有権者の意志に反する政策を採用するだろうか。普通に考えれば、彼らは有権者にウケそうだから保守的な家族・子育て政策を掲げたのであり、そこに統一教会が目をつけて支援を申しで、彼らが党内で出世すれば、それを自分たちの手柄にしようとするのである。自民党内の保守的な家族観を持っている議員が勢力を伸ばすのを助けたのは間違いないが、それをもって、統一教会が自民党をマインド・コントロールしているかのように言うのは主客転倒である。

 

 更に言えば、統一教会の教義と、統一教会の関連団体が自民党にすりよるために掲げているダミー政策を同一視する勘違いが、“旧統一教会問題専門家”にも見られる。例えば、夫婦別姓反対は、明らかに、保守的な人たちにアピールするために世界日報が独自にやっていることである。韓国発祥の統一教会は、むしろ韓国と同様に夫婦別姓を、理想社会の夫婦の在り方として望ましいと考えている。故文教祖夫人の名前を考えてみればいい。

 LGBTについては、神の二性性相の表れである男性と女性の祝福に基づく交わりを起点とする家庭の理想を説く統一教会の教義からすれば、あまり好ましい現象でないのは間違いないが、少なくとも、私がまだ信者だった九〇年代の初め頃までは、同性愛に反対するというようなことは公式に言っていなかったし、同性愛の人はそのままでは祝福を受けられないので、治療を受けた方がいい、というようなことを遠慮がちに言っていたくらいである。恐らく、露骨にLGBT反対を唱えれば、そういう人たちを信者にすることができなくなるし、LGBTの人がいる家庭を伝道することが難しくなるので、表立って問題にしていなかったのではないかと思う。今でもLGBT問題で表立って発言しているのは、関連政治運動団体である天宙平和連合(UDF)であって、旧統一教会本体=世界平和統一家庭連合本体はさほど積極的に発信していない。

 無論、家庭、子育て、ジェンダー・セクシュアリティなど、人のアイデンティティをネタにして与党の一部に食い込むというのは、恥ずべきことであり、宗教団体がそれをやっているのだから猶更だが、それは旧統一教会の教義が政界に浸透している、というのとは全く違う話である。

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✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著
大好評『人はなぜ「自由」から逃走するのか:エーリヒ・フロムとともに考える』KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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