「世界中を飛び回っている印象がありますが、これまでどんな所を見てきましたか?」古市憲寿さんに聞く!(13) |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「世界中を飛び回っている印象がありますが、これまでどんな所を見てきましたか?」古市憲寿さんに聞く!(13)

意識的に「テーマのある」旅行をしている

もともと旅行好きというわけではなかった、と語りながらも、世界中の面白い場所を当たり前のように回ってきてしまう……。そんな古市さんがこれまでの旅で感じた「テーマ」とは?

戦争博物館にはその国の国家観が表れている

オアフ島にある「アリゾナ・メモリアル」は1941年の日本海軍による真珠湾攻撃で沈没した戦艦アリゾナと、その乗組員を慰霊する施設。

 前回の質問で少し触れましたが、僕は2008年にピースボートに乗船したことがあるんです。船に乗っているだけで約30カ国を回ることになるので、行った国の数自体は多いですね。最近は、細切れですけれど、合わせると年間で1~2カ月くらいは海外に滞在しています。

 一時期は各国の戦争博物館を巡っていました。戦争博物館はとても面白い場所で、それぞれの国が「戦争」をどう捉えているのかが、わかりやすく表現された空間なんです。とくに、第二次世界大戦についての捉え方には大きな違いが現れていて、まさにその国の国家観が感じられます。
 たとえば、韓国にとっての第二次世界大戦は、日本に占領された「負の歴史」ですよね。他方で、中国の戦争博物館では日本軍の「残虐さ」を強調した上で、最終的には中国共産党の寛大さによってもたらされた「日中友好」の物語に落とし込まれています。

 ハワイ・パールハーバーの「アリゾナ・メモリアル」はとても印象的でした。全体的に明るいトーンで真珠湾攻撃が展示・紹介されていたんですよ。アメリカにとって第二次世界大戦は「いい戦争」だと記憶されていますし、今でも戦争をしている国なので「戦争反対」なんてことは言わない。国によって「戦争」の扱いはまるで違うんです。

 ほかにも、中国の「南京大虐殺紀念館」、長春の「偽満州国皇宮博物館」、瀋陽の「九・一八歴史博物館」、シンガポールの「シロソ要塞」や「チャンギ博物館」、香港の「海事博物館」……いろいろ回りました。それらの記録は『誰も戦争を教えられない』(講談社)という一冊にまとめているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

 旅行にはよく行くのですが、僕は一人旅が苦手なんです(笑)。戦争博物館もいつも誰かと一緒に回っていたんですけど、仕事や旅行のついでに、無理やり同伴させたりもしていたので、不思議がられていましたね。「なんでシンガポールまで来たのに、カジノじゃなくて戦争博物館に行くんだよ」って(笑)。

 戦争博物館以外でも、意識的にテーマのある場所を訪れるようにしています。最近では、「近代が目指した希望が頓挫したものを見に行こう」というテーマで旅行していました。一昨年に行ったドイツの「ワンダーランド・カルカー」っていう遊園地は面白かったですね。
 ここは、もともと高速増殖炉として使う予定の場所でした。けれども、チェルノブイリの事故が起こった影響で、一度も本格運転することがないままに閉鎖されたんです。そこを改造して遊園地にしているので、建屋とか原子炉とかがある脇をジェットコースターが走ったりしているんですよ。原子力という夢のエネルギーの一つの末路としてとても面白かったですね。

 

明日の第十四回の質問は「Q14.いま、注目している国、行ってみたい国は?」です!

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古市 憲寿

ふるいち のりとし

1985年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。株式会社ぽえち代表取締役。朝日新聞信頼回復と再生のための委員会外部委員、内閣官房「クールジャパン推進委員」メンバーなどを務める。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書に『希望難民ご一行様』(光文社新書)、『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『だから日本はズレている』(新潮新書)などがある。

Twitter: @poe1985


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