「なぜ学級崩壊は止まらないのか?」今でも信じられないある出来事とは【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「なぜ学級崩壊は止まらないのか?」今でも信じられないある出来事とは【西岡正樹】

「学校の当たり前」を取り戻すために・・・身体を通して伝えること

■「お母さんは僕が話していてもいつも別のことをして、僕を見ていない・・・」

 

 さらに、担任をしていた子どもの話から次のようなことがわかった。

「先生、うちのお母さん、僕が話していてもこっちを見ないで、いつも何かしながら聞くんです。だから僕が話しても、適当に『うん、うん』っていうだけ。話を聞かないのはお母さんも同じです」

「話を聞くとはどういうことか」ということをみんなで話をしている時に、子どもが話してくれた。子どもにとって、とても切実な話だ。

 さらに、私の友人から聞いた話だが、それを聞いた時には私も「ここまで来たか」という思いだった。それは、会社では全ての連絡がメールで行われ、隣に座っている者同士でさえ、メールで会話しているというのだ。

「隣なんだから一言声をかければ済むことだろう」

 そう言うと、本人たちにしてみれば「どうして直接話す必要があるんですか」などと言うのだ。

 そのくせ「メールをちゃんとチェックしろよ」という電話は入れるというのだから呆れる。

 これらの状況を見てわかるように、様々な言語活動において、「大人が子どもの見本になっていない」という現状が見えてきた。

 子どもたちは多くの体験を通して、また多くの情報を集めるなどして、様々な力を身に付けていくのだが、その多くは、目の前にいる大人(愛着関係にある人や尊敬できる人)のやっていることを真似しながら身に付けていく。

「自分の思いや考えを伝える」ということも例外ではない。家庭生活や社会生活において、大人たちが日常的に自分の思いや考えを、自らの身体を通して伝え合っていれば、子どもたちはその姿を通して大きな影響を受けるはずである。

 しかし、大人たちが、それぞれの思いや考えを伝え合っていない現状では、子どもたちの見本になる存在がいないということだ。

 学校では「教師は子どもの見本」でなければならない。それが「学校の当たり前」だからだ。「学校の当たり前」を取り戻すための課題はたくさんある。

 巷では、今の子どもたちの様子を見て、「学校教育がなってない云々」とばかり言われるが、子どもたちが最も影響を受けているのは、学校だけではなく身近にいる大人であり、親である。それを忘れてはいけないのではないだろうか。

「子どもは大人の鏡であり、文化の継承者である」。

 

文:西岡正樹

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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