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コロナが変えた日本人の働き方、今を映し出す予言的な小説

■令和日本の社会を映し出す予言的な小説

『御社のチャラ男』絲山秋子著 講談社刊 1800円+税

 会社員生活を作品に描いて読者の共感を呼んだ作家はたくさんいるが、男女雇用機会均等法後の女性の働き方の変化にフォーカスしてきた点では、絲山秋子の立ち位置は随一だ。タイトルがユニークな新作『御社のチャラ男』は、チャラ男と呼ばれる三芳部長を巡って、周囲の社員の会社員生活の悲喜こもごもを描いた作品だ。

 「チャラ男」こと三芳道造44歳は、人材を見極める能力があるゆえ、会社の中での存在価値があると自称している。三芳によれば社員たちは「かれらの悪いところは働きすぎること」らしい。そんな三芳を社員たちの一人称の視点で評した短編がまとまっている。

 社員たちは「グレンチェックのジャケットにネイビーのシャツ、似合わないくるぶし丈のパンツ。尖った靴」といった格好の三芳部長をイケていないと思っている。「努力しない男」で、あげく33歳の女性と社内不倫をしていたりするのが許せない。

 一方、社員たちは好んで働きすぎているわけではないことを、三芳はわかっていない。三芳の部下の伊藤雪菜39歳は、無理してうつ病になり、3ヶ月休職していたが、チャラ男の対応は無神経だ。やがて会社に大問題が発覚し、この小説は大団円に突入する。

 この作品には、作者の体感なのだろうか、予言的な言葉が散見される。「具体的には想像もつかないが、大事件が控えているという気がする」「テロなのか内戦なのか天災なのかパンデミックなのかわからないけれど」「今の状態はノストラダムスの大予言が流行った世紀末の感じとも似ている」と作品に書かれたことが今では現実になっているのだ。

 新型コロナウイルスによるパンデミックの発生で、日本企業は今度こそ働き方改革を本気でやらざるをえなくなった。テレワークが普通のことになり、会社の建物に出かけなくてもいいなら、戦後ずっと続いてきた通勤地獄はなんだったのか、休みもろくに取らずに残業に明け暮れる日々とはなんだったのか、あらためて問われることになったのだ。

 作中人物の一人が「たとえ明日、世界が滅亡しようとも、今日私はリンゴの木を植える」というルターの言葉を引用する。するとすかさず同僚が「植えないね」と答える。人間は弱い、というのが作者の見解なのだ。が、希望がないわけではない。社会全体を揺るがす災厄が変革の機会になるのは、皮肉にも歴史が証明している。だとすれば、これを契機に日本で働き方改革、生き方改革が本当に始まるのだとそう思わずにはいられない。

  

■オススメの3冊

 会社員生活でしんどい定年前後の日々を、明るく過ごすための方法

『定年後からの孤独入門』河合薫著 SB新書 830円+税

 カネでも地位でもなく有意味感があれば、満足ゆく生き方ができると著者は言う。健康社会学の知見とフィールドワークから、オジサンが居場所を手に入れる方法を説く。

  

 高齢化するひきこもりにどう向き合うか、実態と正しい対策を語る

『中高年ひきこもり』斎藤環著 幻冬舎新書 800円+税

 推定200万人以上いると言われる、ひきこもりの半数が中高年だと著者は言う。ひきこもり問題の第一人者が個人と社会、時代の観点から解説した本。

  

 感染症の専門家による新型コロナウイルス対策版「失敗の本質」

『新型コロナウイルスの真実』岩田健太郎著  ベスト新書 900円+税

 ゾーニングがされず混乱を極めるダイヤモンド・プリンセス号に乗り込むも、2時間で追い出された経験から、ウイルス対策として今やるべきことをリアルに語る。

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