元祖鉄道アイドル、今は「鉄旅タレント」として鉄道をアツく語る木村裕子が日本各地の魅力的な路線を紹介する“女子鉄ひとりたび”。今回は地図にない鉄道・「立山砂防工事専用軌道」の知られざる魅力をお届けしよう。(『女子鉄ひとりたび』著 木村裕子 より)

■地図にない鉄道の旅へ

 近年では、鉄道趣味の細分化や深化により、これらの『時刻表』に載らない路線も、鉄道路線の一部、あるいは鉄道に準じた存在として仲間入りをさせる向きも出てきた。例えば、森林浴発祥の地で木材輸送をしていた長野県の赤沢森林鉄道(あかざわしんりんてつどう)や、鉱山輸送の歴史を持ち、走行日は本当に1円で乗車できる兵庫県の明延(あけのべ)1円電車など、おもしろい路線にあふれている。なかでも、富山県の「立山砂防工事専用軌道(たてやまさぼうこうじせんようきどう)」(以下、立山砂防)は、鉄道ファンの間で「一生に一度、乗れるか乗れないか」といわれている。なぜなら個人では抽選に当たった選ばれし者しか乗れないからだ。

 立山砂防は国土交通省が管轄する工事用の路線で、全国有数の急流で暴れ川としても知られる常願寺(じょうがんじ)川沿いにあり、土砂が下流に流れないようにせき止める砂防ダムのメンテナンスと、資材を輸送するために建設された。なんと、沿線には38か所ものスイッチバックがあり、最も急な勾配は83・3パーミル! 全区間の高低差は640メートルに及ぶという。立山砂防では、他では味わえないここだけのスペシャルな乗り鉄体験ができるのだ。

 工事用の資材や人員を輸送する目的で運転されている鉄道なので、本来なら一般の人は乗車できない。でも、7月から10月にかけて立山カルデラ砂防博物館が主催する「野外体験学習会」(以下、学習会)の「トロッコ個人コース」か「トロッコ団体コース」のいずれかに参加することにより、上り・下りのどちらか片道に乗車することができる。立山カルデラや砂防ダムを周知することを目的に実施されている学習会なので、トロッコの乗車時間よりも学習・見学の時間が長く、鉄道ファン向けのツアーというわけではない。それでも乗車できる唯一の方法のため、この幻のチケットを手にしようと抽選に運を賭けるのだ。

 もちろん鉄道好き以外の参加希望者も多いため、応募多数の場合は抽選を勝ち抜く必要がある。抽選に運よくクリアしてもまだ安心はできない。当日の天候が悪いと中止されてしまうこともあるからだ。また、個人コースは毎週水曜日のみ、団体コースは毎週木曜日のみの開催なので、参加のハードルはかなり高い。宝くじの高額当選よりも狭き門のような気がする。私も「いつかは絶対乗ってやるぞ」との野心を抱きつつ、そのチャンスをずっとうかがっていたのだった。