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幻の鉄道「立山砂防工事専用軌道」に乗ってみた! ~女子鉄ひとりたび~

鉄道ファンの間で「一生に一度、乗れるか乗れないか」といわれる特殊路線・立山砂防工事専用軌道に迫る!

■ついに驚愕のトロッコ体験

 参加者全員が揃ったことを確認すると、ディーゼル機関車はエンジン音を上げながら加速していく。全長18キロ、高低差640メートル、1時間45 分の乗り鉄が始まった。出発直後、カルデラを一望できるポイントで一時停車。見学会の行程で何度も見た立山カルデラだが、鉄道の車内から見ると額縁が付いてさらに雄大な光景に見えるから不思議だ。これは日本でも有数の「絶景車窓」といえるのではないか。進行方向左側には崖、右側は絶壁。よくぞこのようなところに線路を敷いたものだと感心する。最初のトンネルに入る。トンネル内はディーゼル機関車のエンジン音が響き渡った。客車には照明がないので、しばらく暗闇の中を走る。一瞬、遊園地のアトラクションに乗っているような気分になった。いや、ここはきっと富山のディズニーランドだ。トンネルに飛ぶコウモリがミッキーに見えてきた。

 事前に調べたところ、立山砂防の下り列車の最高速度は時速15キロ。信号機が設置されていないので、急ブレーキで止まれる範囲のスピードに抑えているそうだ。そのため、ゆっくりと山を下っていくのだろうと漠然と考えていた。

 ところが実際に乗車してみると結構なスピード感。連続するカーブ区間では車体が左右に揺れ動くため、そのたび乗客にもGがかかる。だけど、線路やバラストは定期的に交換されているようで、全体的な乗り心地は決して悪くない。

■一生分のスイッチバック

 出発して約8分。いよいよ樺平(かんばだいら)の18段連続スイッチバック区間に入った。鉄道ファンにとっては、ここからの約15分が最大の見どころとなる。ジグザグと前後に進みながら勾配を緩和する施設だが、18段にも及ぶスイッチバックは世界的にも類例がないとされている。地球上にここだけ。そこに今いる優越感がたまらない。

 まず驚いたのは、方向転換までの時間が短いこと。一般の鉄道のスイッチバックは、運転士が前後の運転席に移動する必要があるので最低でも1分程度はかかるけど、ここではポイントの切り替えも自動化され機関士がリモコンで操作しているので、ものの3秒程度ですぐに折り返す。また、1段あたりの走行時間も短い。下車後にYさんが計測していたと知り、聞くと40〜90秒とタイムを教えてくれた。まさか秒数まで測っていたとは。その鉄道愛に脱帽である。さらに進行方向は目まぐるしく変わる。バック運転の際、機関士は後方を振り返りながら「箱乗り」のように身を乗り出しての運転操作を行う。これも他では見られない激レアな光景だ。

 スイッチバック区間に入ると車内にいても体が前に後ろに反れて、急勾配区間を走行していることを体感できる。速度の遅いジェットコースターのよう。なんといってもここは日本一の急勾配なのだ。また、スイッチバックの折り返し地点には「樺平18」のように、名称と段数の番号が記された標識が設置されている。これを見ると全体のどのあたりの位置にいるのか一目瞭然。アナログのGPSだ。

 窓から下方を眺めるとこれから進む区間のレールがつづら折り状に連なっていて、「いいね!」がたくさんもらえそうなインスタ映えを誇っている。線路脇には雑木林が連なっており空気も心地よい。木々の切れ目からは立山連峰の名峰・薬師岳(やくしだけ)が見える。途中の「樺平9」は上下列車の交換設備があった。ここですれ違った列車は運搬車を3両連結しており、車内には機材が積まれていた。立山砂防の本来の役割を垣間見ることができた。

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女子鉄ひとりたび
“裕子流鉄道旅”に同行すると、日本が愛おしくなる

木村裕子

 

 

 

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木村 裕子

きむら ゆうこ

 名古屋出身。幼少期から鉄道が好きで、JR車内販売員を経て元祖鉄道アイドルから鉄旅タレントへ。2015年に日本の鉄道全線完乗達成。国内旅行業務取扱管理者の資格を持ち、カルチャースクールで講師も務める。 現在は月に7本の連載を始め、「アメトーーク!『鉄道ファンクラブ』」(テレビ朝日)に出演するなど多数メディアでも活躍中。 趣味は「列車に乗っておもしろい場所に訪れる」ことが好きな乗り鉄。他に、変な神社・変な食べ物・変なホテル紹介が得意。著書には『木村裕子の鉄道一直線』(ぶんか社)のほか『木村裕子の鉄道が100倍楽しくなる100鉄』(天夢人)などがある。


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