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『また社会で同じことが起こらないように』
なぜ今オウムなのか?
なぜ“サエキけんぞう”がオウムを語るのか

『幻想の√5』今こそオウムのリアルを語る ~心の深層に分け入る~ 宮台真司×サエキけんぞう×中谷友香

  2019年がまもなく終わる12月26日、死刑が執行された。麻原彰晃(松本智津夫)ほかオウム真理教幹部計7人が死刑になったのも、平成という時代がまもなく終わろうとするそのときであった。

 当時、死刑については様々な議論が起きた。海外では死刑に反対し、なぜオウム真理教はこういう事件を起こしたのか、心理面の部分の研究をするべきだと日本の司法当局に働きかけていたともいわれる。

 オウム真理教の死刑囚たちの素顔を描いた『幻想の√5』の著者・中谷友香氏、社会学者の宮台真司氏とともに、オウム真理教の深層に迫るトークイベントを開催するサエキけんぞう氏に、死刑当時のことを聞いた。

■また社会で同じことが起こらないように

――当時の死刑には反対だった?

サエキけんぞう「もちろん、反対でした。証言は十分得られていないわけですし。麻原はボケたふりをしていたのだと思いますが、あの死刑によってひと段落みたいな感じはよくない。事実、イベントでご一緒する中谷友香さんの著書『幻想の√5 ―なぜ私はオウム受刑者の身元引受人になったのか―』に書かれていますが、生き残った人から重要な証言や情報がどんどん出てきていますから」

 

――オウムについて現在、サエキさんが関心あることを教えてください

サエキけんぞう「まず平成7年、仮谷清志さんが殺害されたとき、『これでひとつの橋を渡った』という認識が教団内に出来上がったそうです。その晩にミーティングがあって、異様にみんな興奮したといわれています。共犯関係は絆を強めると、これは普遍的に言われることですが、殺人は共犯関係の絆を高める最大のプロセスだと思いました。極めて特異な犯罪集団であったと同時に、普遍的な殺人集団の面もあった。僕はそういう普遍的な面に関心がある。あと麻原はどういうところが意地汚いか、もしくは恫喝の仕方とかといった部分に興味があります」

 

――その麻原の人間性はどうみますか? 例えばカリスマがあったとか…

サエキけんぞう「カリスマがあったかどうかというのは、その場にいないと分からないので何とも言えません。ゼロではないでしょうが、僕はあまりなかったと思います。カリスマ性があると思った人は、空中浮遊を信じたりしたわけですが、僕が知る限りにおいては実際にはなかったと思われます。だとしたら、そこもダメだと思います。」

 

――仮に空中浮遊が事実だったならば?

サエキけんぞう「いわゆる超常レベルの話は宗教と関係なく、存在するわけです。予知能力があったり、透視ができたり、戦前にはそういう人たちがいろいろ出てきた。真言宗の高僧の中には10メートルくらい離れたところから気合でローソク消すことができる人もいる。それが目の前で繰り広げられようと、社会通念として実は許容範囲内なんです。しかし、だからといってそういう人たちが犯罪をしていいのかというと、まったくの別問題。そういった能力をカモることに使うことに犯罪性が存在するわけで、麻原の場合は能力がなかったうえに犯罪性が存在していた。そういう意味で、ただの恫喝がうまい人だったのだと思う」

 

――恫喝の仕方としてはどのようなものがあったのでしょうか?

サエキけんぞう「代表的なものだと、水の中に沈めたりするやつ。これは親が子供に火傷させるやり方と同じで、度を外れた鍛え方や拷問にも通じます。それを寸止めする一方、教団内の人間ではない者に対しては殺すことも厭わない。麻原は不幸な出世の中で、人間に対する不信感から、他社の把握の仕方として逸脱した部分があったと思います。人の命を愛でる、人の命を尊重するという大切な部分が欠落していたのでしょう。これは事件途中から感じていたことですが、品性としては最悪なこと。そのあたりの人間性や、組織の作り方、人の動かし方については、1月10日のイベントで話そうと思います」

 

――イベントにはどういう人に来てもらいたいですか?

サエキけんぞう「オウムの事件をリアルタイムで知らない若い人にこそ来てほしい。あれから20年以上経った今、まったく予想もしない形で新しいものが出てくる可能性があるからです。例えば、当時の“ラーメン”“PC”という通俗的なアイテムをきっちりと抑え、売り上げを出していたあたり、すごくサブカル性を背負って立っている。また、ファッション感覚にも表れていた。例えば中村さんの頭の上に手を置いている写真がありますが、中村さん自身が長髪で、90年代のオルタナティブバンドのリーダーと部下みたいな、そんな感じもしました。そうしたサブカルのレベルで語れるヤバい親近感があって、それは今の世の中でも十分に発動可能なテクニックであり、佇まい、存在感だと思います。そういうことを分析して、自分自身がカモられないように、また社会で同じことが起こらないように、知識として蓄えるべきです」

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トークイベント

『幻想の√5』今こそオウムのリアルを語る
~「心の深層」に分け入る~

■開催日時
2020年1月10日(金)@渋谷ロフトナイン  
18:30開場 19:00開演 21:30終演予定

■出演・ゲスト
中谷友香=『幻想の√5』(KKベストセラーズ)著者/サエキけんぞう/宮台真司

■開催場所
LOFT9(ロフトナイン)
住所:東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS(キノハウス) 1F
TEL : 03-5784-1239 FAX : 03-5784-1259
http://www.loft-prj.co.jp/loft9/

■料金
前売¥2000、当日¥2500(飲食代別)※要1オーダー

■前売について
イープラス限定で2019年11月29日(金)より可
https://eplus.jp/sf/detail/3156520001-P0030001

 

『幻想の√5: なぜ私はオウム受刑者の身元引受人になったのか』
中谷友香 著(KKベストセラーズ)

マスコミが報道しなかった!できなかった!
オウム死刑囚たちの肉声と素顔が明らかになる。

なぜオウム真理教事件は引き起こされたのか?
いままで語られなかった事件の真相と再発防止のための第一級資料が公開。

「なぜ私はオウム受刑者の身元引受け人になったのか」死刑執行された林泰男、早川紀代秀ほか死刑囚たち、また無期懲役としていまも収監されている中村昇受刑者(オウム真理教最古参メンバーのひとり)と、著者は15年にわたり面会や書簡を通して交流を続けてきた。そこで見てきた死刑囚たちや受刑者の素顔とはどんなものだったのか? マスコミにこれまで一度も公開されることのなかった彼らの肉声とは何だったのか? かつて仲間だった死刑囚たちが死刑執行されたいま、中村受刑者は何を思うのか? 戦後最大の悲惨な宗教事件として名を残すオウム真理教事件。あのようなことはもう二度と起こらないと言えるか? 事件当時、そして死刑執行直前まで彼らが考えてきた再発防止とは? 死刑囚また受刑者の肉声からは、これまで公開されてこなかった加害者たちの素顔と、事件を起こすまでの彼らの心理状態が赤裸々に語られている。「オウム真理教事件」の真相に迫った第一級資料として世に問うノンフィクション。

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サエキけんぞう

ミュージシャン/作詞家/プロデューサー

1958年7月28日 千葉県出身。千葉県市川市在住。大学在学中に『ハルメンズの近代体操』(1980年)でミュージシャンとしてデビュー。1983年「パール兄弟」を結成し、『未来はパール』で再デビュー。「未来はパール」など約10枚のアルバムを発表。1985年より1992年頃まで歯科医師として日大松戸歯学部補綴学第一教室に勤務経験もあり。1990年代は作詞家、プロデューサーとして活動の場を広げる。2003年にフランスで「スシ頭の男」でCDデビューし、仏ツアーを開催。トッド・ラングレン、セルジュ・ゲンスブールなどのトリビュート事業も手がけ、2008年にクロード・フランソワのトリビュート盤を日仏同時発売。2009年、フレンチ・ユニット「サエキけんぞう&クラブ・ジュテーム」を結成しオリジナルアルバム「パリを撃て!」を発表。2010年、デビューバンドであるハルメンズの30周年を記念して、オリジナルアルバム2枚のリマスター復刻に加え、幻の3枚目をイメージした「21世紀さんsingsハルメンズ」(サエキけんぞう&Boogie the マッハモータース)、ボーカロイドにハルメンズを歌わせる「初音ミクsingsハルメンズ」ほか計5作品を同時発表。2011年より加藤賢崇とともに「ニューウェイヴほぼ30周年祭」を立ち上げ、名盤の復刻、コンピ盤、ボーカロイドによる企画盤のリリースのほかライブも開催。その他、「伊豆田洋之ボールマッカートニーを歌う」のプロデュース、ライブアイドルのプロデュースなど、さまざまな企画を勢力的に展開している。また作詞家として沢田研二、小泉今日子、モーニング娘。、サディスティック・ミカ・バンド、ムーンライダーズ、パフィーなど多数のアーティストに提供しているほか、アニメ作品のテーマ曲も多く手がける。大衆音楽(ロック・ポップス)を中心とした現代カルチャー全般、特に映画、マンガ、ファッション、クラブ・カルチャーなどに詳しく、新聞、雑誌などのメディアを中心に執筆も手がけ、立教大学、獨協大学などで講師もつとめる。その他、TV番組の司会、映画出演など多方面で活躍。著作多数。



【著書】『歯科医のロック』『ヌードなオニオン』(河出書房新社)『東京百景』(NHK出版)、『ネット限定恋愛革命 スパムメール大賞』(文春文庫)『さよなら!セブンティーズ』(クリタ舎)『ヒットの種』(東京ニュース通信社)、『ロックとメディア社会』(新泉社)他、多数。



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