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「教員は早く帰りなさい」というだけのお粗末な指針

【第7回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■教員たちはどう考えているのか?

 日本教職員組合(日教組)は、今年夏に教員を対象とする「日教組 2019年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」を実施している。

 それによれば、上限規制のガイドラインについて、「具体的内容を知っている」と回答したのは4.4%。「ある程度は知っている」と答えたのも、28.7%でしかない。そして、「聞いたことはある」との回答が、49%に達している。さらに「聞いたことはない」という回答も、16.8%もあった。

 上限だけ決めてみても働き方が改善するわけではない、という教員たちの声が聞こえてきそうだ。こうした声を聞こうともしないで、政府・文科省は残業に上限を設けるという、カタチだけを整えたにすぎない

 さらに、上限を設けたことによって、学校現場では教員に対する「早く帰れ」というプレッシャーが強まってくるはずだ。個人情報保護の関係から、データの持ち出しにも厳しい制限がかけられている現状では、自宅へ持ち帰っての仕事も限られる。
 減らない業務を、制限時間以内で片付けることが教員には強いられてくるわけで、大変なストレスにつながっていくことは火を見るよりも明らかだ。
 中途半端な残業時間の上限規制は、働き方の改善どころか、改悪になりかねない。これで政府・文科省が働き方改革の改善に取り組んだと考えているとしたら、まさに自己満足でしかない。

 ただし、問題は政府・文科省だけにあるとも言えない。
 ある中学校の女性教員は、「実は、定時を気にしていない教員が多いのも現状なんです」と言う。そして、「定時を越えて仕事をするのが当たり前になっているところがあります」と続ける。
 教員自身が、残業をすることを当たり前ととらえ、それに慣れきってしまっているのも現実なのだ。不満を口にしながらも、残業は仕方ないと思っている。そういう意識では、本気で自らの働き方を改善する気にもならないかもしれない。

 カタチだけを変え、改善に取り組んだと胸を張る政府・文科省と、残業を当然ととらえてしまっている教員との間では、本当の意味での「働き方改革」の議論にはなっていかないのも当然である。そこからは、大きな改善への可能性も見えてこない。

 先ほどの女性教員は、「教員自身の意識を変えていく必要があると感じています」とも言った。実は、それこそが今、最も問われていることなのかもしれない。働き方を本当に変えたいと思うならば、まずは教員自身が考え、発言し、行動していく必要がありそうだ。

 政府・文科省に働き方改革の特効薬を求めたり、改善策が上から降ってくるのを待っていても仕方ない。
 一人ひとりの教員が声を上げていく状況にならない限りは、カタチだけの改革に終始する状況は続くだろうし、現状も変わらないのではないだろうか。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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