NHK『チコちゃんに叱られる!』に出演し、注目の奥田昌子先生の新著『日本人の病気と食の歴史』の中より、“日本の食の歴史”から学べて、現代でも通用する知識を少しだけ。

■「食べ過ぎると寿命が縮むよ」

 解剖が日本でも行われるようになると、庶民にも科学的な知識が徐々に広がりました。その助けとなったのが浮世絵です。

 現代では芸術作品ととらえられている浮世絵ですが、江戸の人たちにとっては情報を伝えるパンフレットのようなものでした。ときには教科書であり、「市政だより」であり、芝居の興業チラシであり、大事件を伝える新聞であったので、人々は絵をながめるだけでなく周囲に書かれた文字をしっかり読みました。

 先に見た「麻疹能毒養生弁」は、はしかの流行に対する心構えを説いたものですし、昔話を題材とする子ども向けの浮世絵なども多数作られたようです。

 ペリー来航間近の1850年に出た浮世絵に、の『飲食養生鑑』(いんしょくようじょうかがみ)があります。座敷で酒を飲んでいる男性の体が透明になっていて、臓器が描かれています。体内には小びとが大勢おり、食べたものを一生懸命消化しながら、臓器の役割をわかりやすく説明しています。

 胃にいる小びとたちは、「食事も飲酒も、今の6割くらいに抑えるべきだ。そうでないと寿命が縮むよ」と食べ過ぎをいさめています。肺の小びとは、うちわであおいで息を出し入れしながら、「うちわの骨も、こちらの骨も折れそうだ。ちょっとは休もうぜ」と、ぼやいています。

 心臓には奉行のような小びとがいて、「心臓はもっとも大切な臓器ゆえ、よく吟味して、とどこおりなく機能させねばならぬが、乱暴が多くて困るな」と言うと、部下が「さようでございます」と答えます。健康などお構いなしに心臓に負担をかけることを嘆いているのです。アイデアも構図も面白く、漫画のはしりのようです。

 このような科学読みものというべき浮世絵は、体の構造、働き、命について人々の理解を深める役割を果たしました。