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森博嗣 道なき未知「時間の作り方」

人気作家・森博嗣が贈る珠玉の連載エッセイ


★BEST TIMES人気連載「森博嗣 道なき未知」は2016年2月に第1回がスタートし、2017年6月の第40回まで連載が続きました。現在BEST TIMESでは第1~5回までを読むことができます。第6回から第40回までの原稿とあらたに書籍用に書き下ろした8回分を合わせて48回分をまとめた書籍『森博嗣 道なき未知』が大好評発売中。


時間の作り方

■時間ほど貴重なものはない

 タイム・イズ・マネーという言葉があるが、とんでもない。金よりも時間の方がはるかに大切だ。金は作ることができるが、時間は最初に与えられたものから減る一方である。有効に使っても無駄に使っても、とにかく減る。ようするに、時間は「使わない」ことができないのだ。本当にどうしようもない、と思いがちだけれど、しかし、ある程度なら「やりくり」できる。

 簡単なことだが、無駄な時間をできるかぎり減らす、ということしかない。これは口で言うのは簡単だ。誰でも知っている。ぐだぐだとしただらしない人間でも、「ああ、無駄な時間を過ごしてしまったな」と自覚するくらいはできるものだ。それなのに、なんとなく、なにもしないまま時間が過ぎてしまう。

 やりたくないことが目の前にあると、腰が重くなって、無駄な時間を過ごしがちになる。逆に、どうしてもやりたいことがある人間は、なんとか時間をやりくりして、それをしようと努力する。努力しているつもりさえない。自然に積極的になっている。それこそ、寝る間も惜しんで、という状態だ。

 ところで、徹夜をして仕事や勉強をする人がいるけれど、そのあと、ぼうっとして調子が悪いとか、普段よりも余計に寝たりするから、これでは元も子もない。頑張りすぎて、体調を崩し、寝込んでしまったりすると、トータルとして時間を無駄にする。大事なことは、この「トータル」なのである。瞬発的に無理をするよりも、長い目で見て、無駄のない道を選んだ方が良いと思う。

■無駄な時間とは何か?

 一言でいえば、自分の意志に反している時間が「無駄」である。たとえば、特別に見たくもないテレビを見てしまったとか、それほど話したくもない人と長話をしてしまったとか、飲みたくもない酒を飲んだとかだ。あとから考えて「あれは無駄だったな」とわかるものである。経験を重ねると、その場ですぐわかるようになる。しかし、きっぱりとはなかなか振り切れない。「私は意志が弱いんです」なんて言う人がいるけれど、そういうことが言えるのは、そうとう意志が強い人だと僕は感じる。そもそも、これは意志の問題ではなく、考え方、生き方、つまり「あなたの方針」の問題なのだ。意志が弱いなんて、あたかも「躰が弱い」というような責任転嫁をしてはいけない。

 そうそう、「躰が弱い」せいにする人も多いのだ。躰が弱かったら、弱いなりにもっと考えたらどうなのか。急に弱くなったわけではなく、自分の躰なのだから、体力に見合った計画を立てるべきではないか。

 たとえばの話だが、友達と話をするのをやめて、酒を飲むのをやめて、テレビを見るのをやめたら、ほとんどの人がけっこうな時間を手に入れることができるだろう。僕は、この三つはだいぶまえにやめた。どうしてかというと、躰が弱かったからだ。みんなよりも、ゆっくりとしたペースでしか仕事ができない。だから、無駄なことをしないで、時間を捻出する必要があった。

 そうして捻出した時間で新しいことが沢山できた。ずいぶん沢山のものを得た。

 金を投資するよりは、時間を投資した方がずっと割が良い、ということに気づいてほしい。

■出歩かない生活

 この頃、僕はあまり出歩かなくなった。ドライブが好きだから、車を運転したいときは出かけるけれど、どこかへ行くわけではない。買いものは、ほとんど通販で足りてしまうし、友人とのコミュニケーションもネットで充分だ。人が大勢いるところへ出ていくことも、店に入ることも、人と話をすることも、滅多にない。そういう時間が、全部自分一人のものになるから、自分の楽しみにすべて使っている。

 それでもやりたいことが沢山あって、つぎからつぎへと楽しいことを思いついてしまう。楽しさというのはそういうもので、楽しんでいるほど、もっと楽しいことを発想してしまう。だから、雪だるま式に楽しくなるのである。

 これを書いているのは2月だけど、雪だるまといえば、最近積雪があって、庭が雪景色になった。正月でも帰ってこない子供たちが、仕事を休んで遊びにきた。カマクラや雪だるまはもちろん、ソリですべるスロープも作って遊んだ。犬も大喜びで走り回る。気温は氷点下10度以下になるけれど、ほとんど毎日が晴天で日差しは暖かい。野鳥も沢山いるし、リスも走り回っている。

 正月も祭日も仕事をして、雪が降る日のために前倒しでノルマを片づけておけば、こういう休み方ができる。時間は自分のものなのだ。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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