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「七つの海の覇者」、海洋大国イギリスが誇る海兵隊

第二次大戦海兵隊列伝③ ~碧海から緑陸へと殴り込む精鋭部隊~

■「七つの海の覇者」、海洋大国イギリスが誇る海兵隊

1944年6月6日のノルマンディー上陸作戦で大量の装備を携えて内陸部を目指す海兵コマンドたち。後方に見えるクレーンのようなものはチャーチルAVRE(工兵戦車)のアタッチメントのひとつSBG突撃橋で輸送状態である。

 イギリス海兵隊は、世界の海兵隊の中で4番目に古く創設された歴史を誇る。初代アルベマール公爵ジョージ・マンク大佐は、1650年にマンク歩兵連隊(のちのコールドストリーム近衛歩兵連隊)を創設した。そして1652年に第一次英蘭戦争が勃発すると、高級海軍士官の不足を補うべく海軍総司令官に任命された。このとき、マンク歩兵連隊の一部が彼に従って海上勤務に就いたが、これがきっかけとなって1664年、コールドストリーム近衛歩兵連隊からデューク・オブ・ヨーク・アンド・アルバニー海洋歩兵連隊が抽出編成され、同隊がイギリス海兵隊のルーツとなった。

 このような背景が存在することから、第一次大戦が勃発すると、イギリス海軍は海軍の余剰人員と海兵隊を集めて王立海軍師団を編成し実戦に投入。のちに陸軍へと移管されて第63師団に再編された実績もある。

 そして第二次大戦が始まると、緒戦で負け戦続きだったイギリスは、強敵ドイツに対して一矢報いるための起死回生の手段として、現代特殊部隊のルーツとなったコマンドを生み出す。この流れの中で、精兵を任じていた海兵隊は、各艦艇に分遣されている洋上勤務部隊ではなく、地上戦に従事するための部隊をコマンド化。海兵コマンド(ロイヤル・マリーンコマンド)とした。そのモットーは、まさに水陸両用を象徴した「海でも陸でも(Per Mare Per Terram)」。

 かくして海兵コマンドは、大戦初期から中期にかけてのドイツ占領地域に対する奇襲的な小規模上陸作戦(コマンド作戦)に従事。連合軍が優勢となってイタリアやフランスへの侵攻といった大規模な強襲上陸が行われるようになると、海岸堡の獲得とその後の平定のために不可欠な上陸地点の側面の掩護に投入されたり、上陸後に急いで奪取する必要がある重要目標の急速攻略に送り込まれたりと、精鋭特殊部隊に相応しい重要な任務に従事した。

 また、海兵コマンドから志願者を募り、BPD(Boom Patrol Detachmentの略。港湾哨戒分遣隊)の秘匿名称が付与された特殊カヌー部隊がジロンド川をパドリングで遡上。ボルドー港に停泊中のドイツ商船群を襲撃したりもしたが、これが今日の特殊舟艇隊(SBS)のルーツの一部を成している。

 なお、第二次大戦が終結すると、陸軍のコマンドは解隊されて隊員たちは原隊に復帰した。しかし海兵コマンドは、その母体となった海兵隊が元来精鋭で特殊部隊的性格も強かったため、戦後も特殊部隊として存続し、現在に至っている。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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