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海外領土大国のシー・レーンの空飛ぶ守護神・ショート・サンダーランド

第2次大戦飛行艇物語④~蒼空と碧海をまたにかけた「空飛ぶ巨鯨」の戦い~

■海外領土大国のシー・レーンの空飛ぶ守護神、ショート・サンダーランド

飛行中のショート・サンダーランド飛行艇。旋回銃座は機首、機体上面、機尾の3カ所に設けられていた。他に胴体側面窓などに銃座を備える機体も存在する。爆弾倉は主翼直下の胴体内部にあり、爆弾架をスライド式に主翼付け根部に出して投弾する。性能面では日本の2式飛行艇に劣るが、ご覧のごとく類似した外観を持つ。

 海外領土大国であるイギリスは戦間期、それらの領土と本国を結ぶ航空路をアフリカや中東、さらには極東にまで延ばしており、民間の飛行艇が重宝されていた。

 一方、第二次世界大戦勃発の頃のイギリスにおける軍用飛行艇の運用は、二つの流れの中で行われていた。ひとつは海軍の艦隊航空隊、もうひとつが空軍である。ただし艦隊航空隊は艦載のフロート機や小型の艦載飛行艇を運用しており、沿岸部を基地とする大型飛行艇の運用は、空軍のコースタル・コマンドが行っていた。

 ドイツが多数のUボートを投入して、海洋国家であるイギリスの生命線ともいえるシー・レーンを脅かすようになると、多発陸上機だけでなく多発飛行艇も対潜哨戒に動員された。

 イギリスの主力多発飛行艇は、4発のショート・サンダーランドであった。1936年に登場し、本土と海外領土を結ぶ航空路に投入された民間用のエンパイア4発飛行艇をベースとして、各部に改修を加えて軍用機化した本機は1937年10月に初飛行している。

 実はサンダーランドは、意外にもイギリス空軍が保有した初の単葉飛行艇であった。またそれだけでなく、世界で初めて動力旋回銃座を装備した飛行艇でもある。元が海外航空路向けの民間飛行艇だっただけに航続距離がきわめて長く、長大なシー・レーンの防衛を至上命題とするイギリスにとって、本機は特に有用な機種のひとつであった。

 イギリスに対して兵器や軍需物資を供給してくれる「世界の兵器工場」ことアメリカ、そして重要な海外自治領のひとつたるカナダが所在する北アメリカ大陸とイギリス本土を結ぶ、大西洋を横断する長いシー・レーン上には、航続距離の都合で、陸上基地から発進する航空機が到達不可能なためUボートが自在に暴れ回れる海域が点在していた。これはブラック・ギャップと呼ばれ、その範囲を狭めるため航続距離ができるだけ長い対潜哨戒機が求められたが、サンダーランドはそのお眼鏡に適った機体であった。

 ただし太平洋戦域における2式飛行艇の場合と同様に、洋上遥かに進出するサンダーランドもまたドイツ側の哨戒機であるユンカースJu88やフォッケウルフFw200コンドルと遭遇して空戦を交えることがしばしばあった。だが本機の火力と防弾設備は優秀で、相手を撃墜できないまでも優勢のうちに交戦空域から離脱できることも多かった。

 しかしUボートとの戦いでは、時に浮上したまま一騎討を挑まれると、大きく鈍重な本機は返り討ちに遭って撃墜されてしまうこともあった。

とはいえ、イギリス空軍将兵は頼りになるサンダーランドを、愛情を込めてピッグの愛称で呼んだ。

【性能諸元】
全長:約26.0m
全幅:約34.5m
全高:10.5m
全備重量:約22800kg
最高速度:約335km/h
航続距離:約4650km
エンジン:ブリストル・ペガサス×4基
武装:30口径機銃16挺、50口径機銃2挺、爆弾か爆雷または航空魚雷など約900kg
搭乗員数:9~13名
総生産機数:749機

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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