韓国芸能界の闇を象徴した、女優チャン・ジャヨンの悲劇。(『韓流アイドルの深い闇』著/金山 勲より

■彼女は性奉仕リストを残していた

 

 2009年3月、韓国で若者に爆発的な人気を博したドラマ『花より男子』に出演していたチャン・ジャヨンが、自宅で首を吊って自殺した。29歳であった。

 この事件は、後に「性接待」と「自殺」の関連性が取りざたされるようになり、韓国芸能界のもっとも暗い闇を象徴する事件として語り継がれている。

 チャン・ジャヨンは、3人兄妹の末っ子で、事故で両親を亡くしているにもかかわらず、明るく闊達な性格だった。

 2006年の26歳の時に、芸能界にデビューした。若い子が多い韓国芸能界では、相当な遅咲きだったが、初のドラマ『花より男子』の助演で大ブレイクし、同じ年に、映画にも2本出演し、将来を嘱望される女優となっていった。

 女優としては、まさに上昇気流に乗り、これからという時の突然の自殺である。

 姉の話によると、彼女はうつ病を患っており、警察の調査でもうつ病のため約1年前から通院していたことが判明している。

 死因は自殺と断定され、死の2日後に葬儀が行われ、遺骨は両親の墓に葬られた。

 これで一件落着と見えたが、彼女の遺書とされる文書が出回り、その内容が韓国の社会的問題となって拡散した。

 彼女が残したとされる遺書には、スポンサーなどに対して酒の接待だけではなく、性の奉仕まで強要されていたことが綿々と書き綴られていたのだ。

 これらの接待を強要したのが、プロダクションの前代表Kである。彼はチャンさんに性奉仕を強要したり、部屋に閉じ込めて何度も殴ったり罵倒したという。

 衝撃的だったのは、その文書の中にチャンさんが奉仕した韓国要人のリストが含まれていたことである。

 この性奉仕リストに挙げられた10人の実名や、顔写真が一時インターネット上に流れた。そこには韓国財界関係者や、マスコミ関係者の名前が挙がっていた。

 このことが大きく報じられ、捜査当局も本格的な調査に動いた。

 文書に名前があったとされる5人が捜査対象に加えられ、所属事務所や関連施設の防犯カメラ映像、パソコン、捜査対象者の通話やメールの記録、クレジットカードの使用履歴、奉仕現場とされた飲食店などが徹底して調査されていった。

 さらに、チャンさんの知人など約60名が、参考人として呼ばれた。

 この間、捜査の焦点となったプロダクションの前代表Kは日本にいた。Kは前年12月に、強制わいせつ致傷の訴えを起こされたうえ、麻薬使用の疑いもあり、日本に逃避していたのだ。

 韓国当局の要請で、日本の警察も捜査に着手し、2007年6月、Kを不法滞在の容疑で東京都内のホテルで逮捕した。

 日本から韓国に送還されたKの取り調べを経て、警察は4カ月間に至った捜査を終了した。

 その結果は、チャン・ジャヨンの事件に関しては、証拠不十分で立件しないとなったのである。

■立件されないスキャンダル

 問題のキーパーソンで、プロダクションの前代表Kは、2002年に発覚した性奉仕事件にも、深く関与したといわれている。

 韓国日報によると、2002年8月、一部の芸能プロダクションが韓国の財閥二世や政界などの関係者に、人気女性タレントや新人女性タレントらに性の奉仕をさせていた疑いがあり、売春を斡旋したとして、警察が本格的捜査を始めたという。

 しかし、ソウル地検は内偵捜査のみで、この時は立件が見送られていた。

 この件は韓国国会でも問題になった。野党ハンナラ党の議員が国政監査の場でこの問題を取り上げ、当時与党の民主党の三議員が、性奉仕に関わったと追及した。

 芸能プロダクションが、国会の関連常任委員会に対してロビー活動を行い、関係議員が放送局に圧力をかけ、その結果所属芸能人が頻繁にテレビ出演していたことを明らかにした。

 その上、政界の関係者が検察に圧力をかけたため、捜査が打ち切られ、捜査を担当したソウル地検の部長は地方に左遷させられたと糾弾する事態にまでなった。

 韓国芸能界では、立場を利用したセックスの強要は確かにある。

 事実、2010年に所属芸能人を脅して、性関係を強要した芸能事務所社長に、実刑判決が下っている。

 しかし、今回のチャンさんのセックスリスト事件のように、芸能界のスキャンダルが社会問題として大きく発展した事件では、捜査はされたが結局は立件されていないのだ。

 そのこと自体が、韓国芸能界の闇の実態を如実に語っているとされている。