水市場が活発化するなか、参入に意欲をもつ民間企業は世界全体で水ビジネスの機運を高めることに余念がないが、それは水ビジネスの問題に煙幕を張る効果がある。『日本の「水」が危ない』六辻彰二 著より

【水ビジネスの問題を覆う煙幕】

 

 世界の自由貿易のルールや制度を生み出す場としては従来、世界貿易機関(WTO)があった。水ビジネスもここで「正当なビジネス」としての認知を得たことで、1990年代から世界中に波及する後ろ盾を得た。ところが、WTOでは先進国と開発途上国の間の利害対立が絶えず、西側先進国と中国、ロシアなどの政治的な対立が激化したこともあって、2010年代半ばには空中分解寸前に至った。

 その結果、これまで以上に先進国主導の経済秩序を維持するうえで重視されているのが、世界経済フォーラム、通称ダボス会議だ。ここは水ビジネスに関しても世界的なトレンドの発信源となっている。

 1971年に発足した世界経済フォーラムは、公式にはスイスの非営利法人で、「世界の現状の改善のために取り組む」という標語のもと、世界的な問題を政府と民間の垣根を越えて解決することを理念とする。そのために毎年開催される会議には、世界の政財界のリーダーや学術、文化の各方面の著名人が集い、ここで示されるメッセージや方針は、世界に大きな影響力をもつに至っている。例えば、海洋に廃棄されるプラスチックごみを削減するために、2018年の主要国首脳会議(G7サミット)で英・仏・独・伊・加の5カ国が共同で提出した「海洋プラスチック憲章」の内容は、2017年に世界経済フォーラムの支援のもとで発表された、イギリスのエレン・マッカーサー財団の報告書「ニュー・プラスチック・エコノミー」がもとになっている。

 このように大きな影響力をもつ世界経済フォーラムは、政治的に中立で特定の党派に偏らないことを原則とするが、実際には西側先進国の政府と巨大企業の利益を集約する場でもある。実際、その運営資金は世界の1000社以上の会員企業からの会費で賄われており、そのほとんどが50億ドル以上の売上高をもつグローバル企業である。

 そのため、世界経済フォーラムは地球規模での問題を取り上げながらも、その解決にビジネスの手法を重視する方針が鮮明だ。先述のプラスチックごみ問題でいえば、エレン・マッカーサー財団を支援する企業にはペプシやネスレなどの世界的な飲料・食品メーカーも含まれており、これらはプラスチック廃止キャンペーンと並行して、共同で再利用可能な素材開発やボトルのデザインの一元化を進め、この分野での優位を築こうとしている。つまり、社会問題の解決に向けた機運を高めつつ、そのなかで自らが最大の受益者になることが、これらグローバル企業の一般的な行動パターンなのだ。