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【1人1台端末の活用】文科省から教員に与えられた夏休みの宿題

第88回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■本格運用に向けた準備は簡単ではない

 1人1台端末はほぼ実現していたものの、大阪市内の小中学校のすべてがオンライン授業に対応できる体制が整っていたわけではない。
 WiFi環境が整っていない家庭も少なからずあり、モバイルルーターを貸し出して間に合わそうにも台数が不足している状態だった。さらには、全小中学校の生徒が一斉にオンラインを利用すると、回線容量の問題で繋がらなかったり、途中で切れてしまう状況だった。
 そして、学校現場をはじめとして市長への批判が巻き起こる結果を招くことになる。1人1台端末さえ実現すれば、それを「日常的なツール」として使いこなせるとの市長の認識不足が招いた大混乱だった。

 一方、文科省はそれを理解していたようで、1人1台端末の実現と同時にオンライン授業を指示するようなことはなかった。しかし、「日常的なツール」にする体制を夏休みを使って整えることを求めてきているのだ。大阪市長と似たりよったりの感覚が、文科省にもあるように思えてしまう。

 文科省が活用を求めている「本格運用時チェックリスト」には、5つのポイントが示されている。
 そこには「管理・運用の基本」として端末の管理台帳を整えるとともに運用ルールを明確にし、「クラウド利用」としてのネットワークの整備などもチェックポイントとして挙げている。

 さらに、「ICTの利用」として「学校等において、ICT端末とインターネットが効果的かつ安全・安心に活用されるよう準備することが重要です」と記されている。これが指している範囲は広く、「安全・安心」には配布された端末を使ってSNS上のいじめが起きないようにする配慮等までが含まれてしまうかもしれない。考えればキリがない。

 教育の情報化を推進するための組織・支援体制の構築も挙げられているが、注目されるのは「研修・周知」の項目である。そこには、「1人1台端末を活用することの意義やその方法・留意点等について、教職員への研修や家庭・保護者等への情報提供を十分に行うことが重要です」と記されている。
 1人1台端末を活用するために、つまり「日常的なツール」とするために、教員への研修を十分に行うことが重要だというわけだ。子どもたちが1人1台端末を「日常的なツール」として使いこなすには教員の指導も必要なわけで、その力を教員は研修で養わなければならない。

 自分が指導できる力を養うだけでなく、保護者にも端末活用の方法や留意点を伝えることも教員の役割になっている。チェックリストのどの項目を達成するにも、負担は教員にのしかかってくる。

 7月13日付の文科省からの事務連絡は、これを夏休み中に達成して、2学期には「日常的なツール」として1人1台が活用されている光景の実現を求めていることになる。真面目にやろうとすれば、教員にとっては「辛い夏休み」になるだろう。
 文科省は教員の多忙解消のために、「1年単位の変形労働時間制」の導入が可能となる制度を導入している。忙しすぎて休みの取れない分を夏休み等にまとめて取れるという制度である。
 しかし休みのまとめ取りどころか、忙しすぎて休んでなどいられない夏休みになるかもしれない。しかも、今年だけに限らない可能性も高い。それが、教員に突きつけられた現実だ。

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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