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フロム鉄道とフィヨルドクルーズ

思い出のヨーロッパの鉄道紀行

ベルゲン駅で発車を待つローカル列車

 前回書いたように、ノルウェーの首都オスロからベルゲンまで急行列車に揺られて旅した翌日、ベルゲン駅からフロム鉄道とフィヨルド・クルーズをメインとする周遊日帰り旅行に出発した。

 まずは、朝、850分発のミュールダール行き普通列車に乗る。2両連結のえんじ色の旧型電車が2組連なった4両編成だが、後部2両は途中駅ヴォスで切り離されるので、前2両に席を取った。

 車内は、ほどほどの混み方だ。トンネルを抜けて最初の駅に停まったあとはフィヨルドに沿って走る。前日乗ったばかりの区間だったが、オスロからの長旅で絶景の連続を味わいつくした後でボーっとしていたせいか、改めて車窓を眺めていても新鮮そのものである。朝の爽やかな気分のせいかもしれない。

 10分もしないうちに次の駅に停車というパターンで列車旅は進む。夏の観光シーズンのせいか、ほとんどが旅行客で、下車すると電車や駅舎をバックに記念写真を撮っている。

 ヴォス駅から2両編成と身軽になった電車は、ゆったりと長い勾配を坦々と上っていく。高原状の広々とした区間に差しかかり左右に滝が見える。このあたりまで来ると、前日の急行列車の旅を思い出した。トンネルをくぐって大きく左にカーブすると、この電車の終点ミュールダール駅。ベルゲン駅からは2時間10分ほどの所要時間で、ほぼダイヤ通りだった。駅の周りには何もなく、これから乗車するフロム鉄道との乗り換えのためにあるような駅である。ほぼ全員が降りたホームの反対側に移動する。すぐにフロム鉄道の車両がホームに入ってきた。

ミュールダール駅でフロム行きに乗り換え

 フロム鉄道の車両は、1990年代後半は頻繁に変わっていたようだ。旅行者用の冊子では、ベルゲンから乗ってきたのと同じようなえんじ色の電車だったり、帰国後の情報では電気機関車牽引の客車列車だったりしたが、私が乗ったのはダークグリーンの電車だった。どこかで見たことがある車両だと思ったら、スウェーデンの首都ストックホルム近郊を走っている電車と同じタイプのもので、ドアが片側に3つあるので長距離列車用ではない。もっとも、すべてクロスシートなのが救いだった。

 発車後、すぐに雪除けのスノーシェッドに入り、そのあとループ線をぐるりと一回りするとショースフォッセン駅に停車する。訳すとショース滝駅。片側だけのホームの目の前には駅名の通り滝が見える。滝以外何もないところで滝見物のための停車だ。誰もがカメラやビデオ片手に電車から降り、ホームの先にある滝見物スポットへと急ぐ。展望台の先端に進めば水しぶきを浴びることになる。轟々と音を立てる滝は間近で眺めると壮観だ。

滝見物のために停車

ショースの滝を見物

 5分ほど経つと車掌が発車するので電車に戻るよう叫ぶ。全員が名残惜し気にホームへと急ぐ。席に戻ってホームを見ると、車掌が展望台周辺をまわって乗客がいないことを確かめている。乗り遅れたら最低でも1時間以上は待たなくてはならない。カフェや売店はおろか人家など何もないところなので大変だ。

 運転再開後、電車はトンネルやスノーシェッドをいくつも潜り抜けながら高度をどんどん下げていく。ケーブルカーではなく、ラックレール(アプト式などの歯車式)鉄道でもなく、ごく普通の鉄道だ。1000分の55という勾配は廃止となった信越本線の碓氷峠よりは緩やかである。それでも、峡谷や牧場、谷あいの集落や小さな教会などメルヘンのような車窓が展開する。終点フロムまではおよそ1時間の旅。20㎞ほど走るうちに標高866mのミュールダール駅から僅か2mのフロム駅まで一気に下がったのだ。

フロム鉄道の車窓から

 フロム駅は意外に広々とした構内を持ち、一角には鉄道博物館もある。かつて、この路線で使われたであろうレトロな電気機関車や客車が野外に展示してあった。駅前には船着き場がある。周囲を山に囲まれた湖畔のように見えるが、実は海。海岸から何百キロも奥に入り込んだフィヨルドの先端なのだ。ここでフィヨルド・クルーズ船に乗り継いで船内からフィヨルドの絶景を楽しむ。

フロム駅

フロム鉄道博物館

 クルーズは2時間半ほどで、ノルウェー最大のソグネ・フィヨルドから枝分かれしたアウルラン・フィヨルドを下り、途中からさらに枝分かれしているネーロイ・フィヨルド(2005年に世界自然遺産に登録)を進む。枝分かれしているフィヨルドは幅が狭く川のようだが、海のため水面は静かで船はほとんど揺れることがない。両側は断崖絶壁で、ある意味異様な光景だ。ところどころに童話の絵本から抜け出てきたみたいな集落があるが、移動手段は船しかなさそうだ。甲板に出てみると真夏にもかかわらず肌寒い。

フィヨルドクルーズに出発

フィヨルドの様子

 クルーズを堪能した後はグドヴァンゲンに上陸し、ここからはバスに乗り換える。20分ほどで山を登ってスタルハイム・ホテルに到着。トイレ休憩なのだが、何人もの乗客がカメラを持って降りる。何があるのかな、と思って後に続くと、みんなロビーを突っ切って裏のベランダへと向かう。そこからは渓谷の絶景が広がっていた。

グドヴァンゲンからはバスに乗車

バス乗車の途中、ホテルのベランダから眺めた絶景

 シャッターを切ったあとは急いでバスに戻る。30分ほどでヴォス駅に到着。しばらく待つと、前日乗ったベルゲン行きの急行列車がホームに滑り込んできた。充実したワンデートリップは、この列車の旅で幕を閉じる。

ヴォス駅からベルゲンまでは列車旅

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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