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『加能資料 補遺Ⅱ』のこと

季節と時節でつづる戦国おりおり第481回

 商売柄、歴史資料にはいろいろとお世話になっております。老眼をものともせず細かい文字を追いながら日々悪戦苦闘しておりますと、たまにアノ史料とコノ史料とを付き合わせると新しい発見があったりして、そういうときは極上の小説が最後の最後にとびきり意外で見事な伏線回収をやってのけたときのような興奮を味わえます。確率と視力への悪影響の観点からあまりおすすめはしませんが。

 というわけで、末輩の身ながら筆者がお世話になる歴史資料。その中には、御著者の方々からご恵贈いただくものもかなり多く、有り難い限り。先日も今回の標題書を頂戴いたしました。

 この書籍は石川県の歴史に関する史料を編纂したものなのですが、天文10年9月5日条の部分に注目しました。

 この部分は「天文日記」(大坂本願寺の日記のひとつです)から引用されていて、本願寺が「越前の朝倉氏が本願寺(と、その前線である加賀一向一揆)との講和を申し入れ、受諾してくれるなら越前国内の3郡を割譲するというほぼ降伏同前の外交態度をとってきた」と南近江の六角氏に知らせているところでして、先行して活字化されていた『石山本願寺日記』(清文堂)では「使藤田也」で終わり次の内容に移ります。

 ところが『加能史料』ではこのあとまだ文が続き、「(朝倉氏から)返事が来れば、重ねて連絡する、と言い送った」といった感じで、結構重要なことが記されています。

 同様の差異は他にも結構あるということで、活字翻刻された資料がすでに存在しても、改めて原本・異本に当たれば脱漏・誤記・誤解釈にも行き当たるという、良い事例ですね。

 歴史資料を利用するにはこういった点にも細心の注意が必要なので、マジメに考えれば気が遠くなってしまいそうですが、逆に考えるとそういうスリリングな発見に出会えるチャンスでもありますから、楽しみだとも言えそうです。そういう機会がありましたら、皆さんもぜひいろんな資料を見くらべたりしてみて下さい。

「ク~ッ、この気付きの瞬間がたまらん!」

 という至福のひとときが味わえるかも…?

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橋場 日月

はしば あきら

はしば・あきら/大阪府出身。古文書などの史料を駆使した独自のアプローチで、新たな史観を浮き彫りにする研究家兼作家。主な著作に『新説桶狭間合戦』(学研)、『地形で読み解く「真田三代」最強の秘密』(朝日新書)、『大判ビジュアル図解 大迫力!写真と絵でわかる日本史』(西東社)など。


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