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【間もなく発足するデジタル庁】『データ駆動型の教育』でデータはどのように利用されるのか

第84回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■子ども、そして教員に対するメリットとリスク

 たとえば学習履歴では、テストでの点数が重視されることにつながりかねない。点数や順位はデータ化しやすいからだ。逆に、子どもが興味を持ったかどうかといったことはデータ化しにくいことなので、軽視されることになりかねない。
 そうした傾向は、既にある。「TIMSS」(IEAの国際数学・理科教育動向調査)の2019年調査で日本は、小学算数で5位、中学数学でも4位という好成績をあげている。
 一方で、算数や数学は「嫌い」という回答が多いのも日本の傾向となっている。問題の解き方は教えるけれども、ほんとうの算数・数学の面白さを伝える授業になっていないからだと言われている。
 データ化が重視されていけば、この傾向が強まる可能性は高い。

 教員についても同じことが言えそうだ。指導や支援をデータ化するために、単純な数値に置き換えられない。受け持っているクラスのテストでの平均点が良ければ、プラスの点数としてデータ保存されるかもしれない。逆に、担任しているクラスが学級崩壊になれば指導力をマイナスとしてデータ化されかねない。
 そうしたデータを利活用しようとなると、教員の評価に利用されるのだろう。子どもたちと同様に、子どももデータ化される数値を気にして指導や支援にあたらなければならなくなる。

 先ほどの「計画」には、「児童生徒一人一人のIDについては、マイナンバーカードの活用を含め、ユニバーサルIDや認証基盤の在り方を検討する」ともある。
 マイナンバーカードに限らなくても、特定のIDに個人データが関連付けられ、すぐに引き出されることが想定されているのだ。つまり、学校での成績が一生ついてまわることになるわけだ。

 さらに「計画」は、「学校内外のデータの将来的な連携も見据えた教育データの蓄積・流通の仕組みの構築に向けて、関係府省庁間で検討し、目指すべき姿やその実現に向けて必要な措置を盛り込んだロードマップを提示する」ともある。
 何のために利用するのかではなく、利用することが前提になっているようにも読める。生徒の1人1台端末も実現したのだから、それを使えばデータ化はしやすくなる。せっかくデータ化するのだから何かに使わなければならない、というわけだ。

 教育の内容というよりも、デジタル化を推進するために利用する方法を考えようとしているように思えなくもない。データ化が優先されて、学びの本質そのものが、ますます疎かにされてしまう危険性をはらんでいるともいえる。
 ともかくデジタル化を進めようという政府方針に従って、「データ駆動型の教育」に走り出せば、学校現場は混乱するでだけのことになるかもしれない。

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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