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ライブレポートが到着!9月18日(木)東京国際フォーラムにて開催。「JAZZ NOT ONLY JAZZII」

石若駿率いるSPバンドがアイナ・ジ・エンド、岡村靖幸、KID FRESINO、椎名林檎、中村佳穂、ロバート・グラスパーとともに奏でた一夜限りの豪華セッション。11月WOWOW放送・配信!


オールラインナップ

9月18日、ドラマーの石若駿率いる次世代の実力派バンドが豪華アーティストと一夜限りのスペシャルセッションを行うライブイベントの第2弾、『JAZZ NOT ONLY JAZZ II』が東京国際フォーラム ホールAで開催された。NHKホールでの初開催となった昨年は上原ひろみをはじめとした多彩なラインナップが大きな話題となり、9月19日から劇場版として甦り、全国の映画館で上映が開始されている。今年は会場の規模が拡大し、日本のみならず、海外からグラミー賞受賞アーティストであるロバート・グラスパーも参加。さらにはイマーシブ音響システム「d&b Soundscape」を採用し、より没入感のある音楽体験を実現するなど、去年以上に濃密な一夜となった。

昨年同様に音楽評論家の柳樂光隆がオープニングのDJを務め、開演時刻を過ぎると昨年のラフなTシャツ姿からフォーマルなスタイルに変わった石若をはじめ、西田修大(ギター)、細井徳太郎(ギター)、マーティ・ホロベック(ベース)、松丸契(サックス)、山田丈造(トランペット)、渡辺翔太(ピアノ)によるThe Shun Ishiwaka Septetが登場。昨年の「A Love Supreme」に続いて、今年もジョン・コルトレーンの楽曲である「Transition」からライブがスタートし、早速細かなパッセージやフリーキーな演奏でオーディエンスを魅了する。


柳樂光隆

石若駿

この日最初のゲストとして登場したのは、唯一昨年に続いての出演となるアイナ・ジ・エンド。黒いドレスを着たアイナは「Frail」で妖艶さとキュートさを併せ持った魅力を振りまき、石若がドラムンベース的なリズムを叩く「革命道中」ではオーディエンスからのコールを求めたりと、その記名性の強い歌声に加え、やはりアイコニックな存在感が際立つ。さらに「去年やってすごく楽しくて、もう一回今年もやりたくて」という話から始まったのは「私の真心」。アイナは裸足になり、情感たっぷりに歌い始めると、途中でこの曲の作詞作曲を担当している岡村靖幸が登場。2人が掛け合いをしながら歌い、松丸の艶やかなサックスや西田のエモーショナルなギターがその熱量を後押しすると、終盤ではアイナがバレリーナのようにステージを舞い踊り、早くもこの日最初のクライマックスを生み出していた。

アイナ・ジ・エンド


アイナ・ジ・エンド&岡村靖幸

松丸契

石若とはライブでは初共演という岡村は、名作『家庭教師』収録の「祈りの季節」を披露し、キレのあるステップですぐにステージを掌握すると、原曲はAOR風の「Lion Heart」では山田のトランペットがムーディーな雰囲気を盛り上げる。「Lion Heart」について、「岡村さんとジャズの話をして、『Round About Midnight』が好きだと聞いて、僕もマイルス・デイヴィスのバージョンが好きなんですけど、その雰囲気でアレンジしました」と裏話を話すと、岡村とともにもう一曲披露されたのは「ハレンチ」。イントロでオーディエンスが一斉に立ち上がり、ファンキーなボーカルと演奏で場内は一気にヒートアップ。岡村はステージを動き回りながら「カモン!」と煽り、ダンスでさらに盛り上げたりと、流石の千両役者ぶりだった。

岡村靖幸

ここで当初出演予定だったが、体調不良によってキャンセルとなってしまったトランペッターの日野皓正に触れ、石若が「僕がジャズの道に行くきっかけとなった人」と日野とのエピソードを語り、Septetのみで演奏されたのは日野の「Still Be bop」。石若とは札幌で小学生からともに音を鳴らしてきたという山田のトランペットをフィーチャーしつつ、曲の後半では西田と細井がスリリングなギターソロのバトルを聴かせ、ライブ中盤のハイライトを作り出した。

山田丈造

西田修大


細井徳太郎

石若を除くメンバーが一度退場して、グランドピアノがステージ中央に運ばれると、次のゲストである中村佳穂が登場。同い年で、10年来の付き合いという2人が飾らない雰囲気で言葉を交わすと、中村がいつものようにピアノを弾きながら即興で石若との思い出をメロディーに乗せ、「駿のことを思いながら書いた曲」という「さよならクレール」をデュオ編成で披露。さらに「忘れっぽい天使」も即興に近い形で言葉を紡ぎながら届けられ、やはりこの自由度の高さが中村のパフォーマンスの大きな魅力だ。再びSeptetのメンバー全員が合流すると、KID FRESINOが登場してコラボレーションを披露し、中村はそのままハンドマイクで「MIU」を伸びやかに歌い上げ、最後まで音と戯れる喜びに溢れたステージを見せてくれた。

中村佳穂

再びKID FRESINOがステージに登場すると、プログレッシブなリズムに巧みなフロウを乗せる「Coincidence」を届ける。石若と西田はKID FRESINOのバンドメンバーということもあり、そのグルーヴは一日の長があるというもの。さらには石若のリーダーバンドであるAnswer to Rememberの曲にKID FRESINOが参加した「RUN」が演奏され、こちらも変拍子のアグレッシブなリズムながらラップも演奏も非常に有機的で、渡辺のシンセからソロを回して行ったのも圧巻。余計な言葉は発さず、ラップのみで自身を表現するKID FRESINOのスタンスもかっこいい。


KID FRESINO

渡辺翔太

「ライブでやるのは初めての曲」という紹介から始まったのは重厚な「鶏と蛇と豚 ~Gate of Living~」で、ここで着物を纏い、笠を被った椎名林檎がステージに登場。その存在感はやはり別格で、KID FRESINOのラップとの絡みを聴かせ、続く東京事変のナンバー「能動的三分間」で笠を投げ捨てると大きな歓声が起き、オーディエンスはその歌声にすっかり酔いしれていた。近年は椎名のバンドに石若が参加していて、J-POPの世界に様々なジャンルの音楽を持ち込み、その中でもジャズが一つの軸だった椎名と石若の邂逅は必然だったと言えるかもしれない。そんな椎名と最後に披露されたのは名曲「丸の内サディスティック」。東京国際フォーラムの所在地がまさに丸の内ということもあって、期待していたオーディエンスも少なくなかったと思うが、その期待にバッチリ応え、しかも歌詞が英語の「EXPO Ver.」だったのは今年だからこそ。扇子を手に持ち、仰ぎながらの歌唱は優雅かつエレガントで、文句なしの名演だった。

椎名林檎

椎名林檎


ここで少しの転換時間を挟み、いよいよロバート・グラスパーが登場。まずはベース、ドラム、DJとの4人編成で「Find You」を披露し、そのジャンル横断的な作風がジャズの新たな時代を切り開いた第一人者であることを改めて印象付ける。そして、ここで公演のオフィシャルTシャツに着替えた石若が登場し、グラスパーと握手を交わすと、ツインドラム編成で「Rise and Shine」を演奏。曲の後半でグラスパーのバンドのドラマーであるジャスティン・タイソンと石若が白熱のセッションを繰り広げたのは、この日最も手に汗握るシーンとなり、最後にサンプラーを使って、日本語で「音楽は人生、音楽はアート」とメッセージを伝えたのも感動的だった。さらにはグラスパーと石若にマーティが加わり、ピアノトリオ編成で「Jelly’s Da Beener」を披露。それぞれのソロをフィーチャーしながらの演奏はステージの広さを感じさせず、ジャズクラブのような非常に親密なもの。演奏を終えるとグラスパーと石若がハグをして、大歓声とともに本編が終了した。


ロバート・グラスパー 


石若駿&ロバート・グラスパー

石若駿&ロバート・グラスパー


石若駿&ロバート・グラスパーバンド

マーティ・ホロベック

アンコールでは石若がグラスパーについて、「ジャズをやり始めた頃からずっと聴いてた人と一緒に演奏できる日が来るなんて。当時の自分に教えてあげたい」と話すと、最後にこの日のゲスト全員がステージに集結して、椎名林檎の「長く短い祭 ~In Summer, Night~」で大団円。再びオーディエンスが一斉に立ち上がり、椎名から始まる超豪華なマイクリレーを堪能しつつ、さらにはそこにグラスパーのピアノソロが加わるという光景は、間違いなく「JAZZ NOT ONLY JAZZ」だからこそ実現できたものだ。日本の音楽を世界に発信する流れが明確化する中、国内外の一流アーティストがともに音を鳴らすことによって、日本のジャズの、日本の音楽文化の、確かな達成を刻んだ一夜になったと言っていいのではないだろうか。

アンコール

なお、本公演の模様は、11月16日(日)にWOWOWで放送・配信が決定。さらに、11月23日(日)から視聴可能なStreaming+や、Live Extremeでは、ドルビーアトモスやハイレゾフォーマットによる高音質配信チケットも販売中だ。昨年のライブ映像を映画化した劇場版も絶賛公開中。圧倒的な熱量と響きを、映像でも余すところなく体感してほしい。


文:金子厚武
写真:太田好治

【セットリスト】
■The Shun Ishiwaka Septet:Transition
■アイナ・ジ・エンド:frail、革命道中
■アイナ・ジ・エンド&岡村靖幸:私の真心
■岡村靖幸:祈りの季節、Lion Heart、ハレンチ
■The Shun Ishiwaka Septet:Still Be bop
■中村佳穂:さよならクレール、忘れっぽい天使、MIU
■KID FRESINO&中村佳穂:OPENING
■KID FRESINO:Coincidence、RUN
■KID FRESINO&椎名林檎:鶏と蛇と豚~Gate of Living~
■椎名林檎:能動的三分間、丸の内サディスティック
■ロバート・グラスパー:Find You
■石若駿&ロバート・グラスパー:RISE & SHINE
■石若駿&マーティホロベック&ロバート・グラスパー:Jelly’s Da Beener
※アンコール
■All Line Up:長く短い祭 ~In Summer, Night~

キービジュアル

【映画情報】

作品名:劇場版「JAZZ NOT ONLY JAZZ」
◆公開日:2025年9月19日(金)より、全国公開
◆出演:アイナ・ジ・エンド、上原ひろみ、大橋トリオ、田島貴男(Original Love)PUNPEE、堀込泰行 
◆バンドメンバー:The Shun Ishiwaka Septet(Dr. 石若駿、Gt. 西田修大、Gt. 細井徳太郎、
 Ba. マーティ・ホロベック、Sax. 松丸契、Tp. 山田丈造、P. 渡辺翔太)※出演者50音順
◆製作・配給:WOWOW
◆チケット料金:3,500円(税込)均一
※109シネマズプレミアム新宿は料金体系が異なります
◆HP :https://jnoj.jp/film/
◆予告編: