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認知症になった父の「野焼き」に手を焼いた。やるせなかったあの時間

【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第三十三回

■「おちばたき」⇒「落ちバタキ」⇒「バタキ」?

 ぼくの場合は、童謡「たきび」の歌に出てくる「落ち葉たき」だった。
 子供の頃は「落ち葉たき」という単語が頭の中にない。歌詞は「たきびだ たきびだ おちばたき」と歌われるが、この「おちばたき」を「落ちバタキ」だと思っていて、ずっと「バタキって何だろう?」と疑問だった。
 たき火を見ながら、自分なりに答えを出した。たき火をしているときに落ちてくるもの、それがバタキだろう。おお、そうか、なんか黒いものが空に舞い上がって、ひらりひらりと落ちてくる、あれだ、あれがバタキだ! 
 こうして夕暮二郎少年は、たき火のときに出る黒いススや、飛び散った燃えカスを「バタキ」だと思い込み、「たきびだ たきびだ 落ちバタキ」と歌っていた。実話である。文学性のかけらもない。

 もう何十年も忘れていた他愛のない記憶だったが、認知症の父親と接して、久しぶりにこのバタキを思い出した。父が家の前で野焼きをしていたからだ。

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夕暮 二郎

ゆうぐれ じろう

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。



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