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AIに仕事を奪われないために。身につけるべき「ほんとうの教養」

物事の本質は見えていないところにある。

■自由になるための教養

「リベラルアーツ」という言葉は教養を意味するものとして知られるが、真の教養とはただ単にたくさんの知識を知っているということではない。見えているものや常識にとらわれずに、自由な思考をするための力を養う学問のことだ。古代ギリシアには、自由な市民と奴隷が存在していた。市民は労働を奴隷に任せて、自由な時間を過ごせたのである。その余暇の時間に教養を学ぶことで、市民は人間として自由に考える力を養えるようになった。

 これからの人間が思考力を磨いていくためには、洞窟の中で縛られたままの奴隷になるのではなく、自由な思考力を磨いて、洞窟の外へと飛び出せるようにならなければならない。だが、今までの日本では、洞窟の壁に映された影を

そのまま知識として詰め込み、無批判に暗記させるような教育が行われてきたのではないだろうか。だから、自由な思考をすることのない、奴隷のような労働者が大量生産されていった。今の日本で、常識を一変させるようなイノベーションが生まれにくいのも、こういった事情が関係しているのだろう。

 

 文句も言わず、安価で、効率的に、長時間の労働に従事してくれる大量の労働者の存在は、戦後の日本経済を躍進させる原動力となったのかもしれない。だが、今後はAIやロボットがこういった役割を担うようになっていくとすると、労働者たちは立ち行かなくなってしまうだろう。

 しかし、逆に言えば、AIやロボットが労働を担うことによって、人々は古代ギリシアの自由な市民のように、労働の負担から解放されて、自由な時間を過ごせるようになるのではないだろうか。だから、今こそ人間は、教養を学んで、自由な思考をする力を磨かなければならない。

 大学等で教養教育として学ぶもののほとんどは、一見すると何の役に立つのかわかりづらいものばかりである。これまで、多くの人は、役に立たない勉強よりも、資格をとったり、仕事に関係する知識を学んだりして、直接役に立つ勉強を学ぶことに力を入れてきた。だが、これからの時代は、一見すると何の役に立つのかわからないような教養科目のほうが、価値が生じるようになっていくのではないだろうか。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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