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保育園の騒音や建設反対問題は、70年代から議論されていた

忘れられた庶民の伝統④

騒音を理由とする、保育園建設反対運動は40年前から問題になっており、最近の問題ではないとパオロ・マッツァリーノ氏は語る。そのうえで、これまでの騒音問題の流れをふまえて保育園の建設場所を考えていくべきと『歴史の「普通」ってなんですか?』(ベスト新書)で述べている。

■こどもの声は騒音?

 

 1975(昭和50)年9月9日付朝日新聞(東京版)と、1976年1月20日付読売新聞が同じテーマを取りあげてます。とりわけ読売は、「こどもの声は"騒音"か」というそのものズバリの見出しのもと、見開き二ページぶんを使い、レポートと賛否の意見を載せるという、かなりの力の入れようです。

 発端となったのは、東京都目黒区が建設した学童保育所でした。鉄筋二階建ての「デラックスな」施設は、老人憩いの家との共用となってます。

 およそ1年前のこと。この施設の建設計画が公表されると、周辺住民七五名が建設反対を表明しました。近隣には、こどものカン高い遊び声などの騒音に耐えられない老人・病人・著述家・音楽家などがたくさんいて、仕事や生活に支障が出る、というのがその理由。

 区は反対住民と協議して、こどもたちを建物屋上や庭では遊ばせない、室内で遊ばせるときは窓を閉めたままにする、などの条件で折り合いをつけ、学童保育所はオープンに漕ぎつけたのでした。

 ところが今度はこどもを持つ親の側から、これでは密閉された収容所みたいだ、屋上を開放し、窓も開けろという請願書が提出され、区は板挟みに。

 もう一例の取材先は東京都杉並区の保育園計画。3年前、土地を取得し区立保育園を建設しようとしたところ、周辺住民から環境悪化につながると待ったがかかりました。ただし彼らは保育園の必要性は認めており、譲歩するための条件を出しました。屋上やスピーカーは使用しない、建物には防音・吸音材を使用し、都の条例で決められた住宅地での騒音規制基準、45ホン(現在、騒音レベルの単位はデシベルですが、当時はまだホンを使っていました)を超えないことなど。われわれ住民は、これまでこの規制を守り、静かな環境を保つ努力をしてきたのだ、もし保育園ができたら、こどもの騒ぐ声を永久にガマンし続けねばならなくなる、というのが彼らのいいぶん。

 区は要求をほぼ吞みましたが、大勢のこどもが遊ぶので、45ホンに抑えることは不可能と通知。反対住民は納得していないが、保育園を待ち望む父母たちのため強制的な着工に踏み切るかまえです。

 
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パオロ・マッツァリーノ

イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。



著書に『反社会学講座』『日本人のための怒りかた講座』『誰も調べなかった日本文化史』(以上、ちくま文庫)、『「昔はよかった」病』(新潮新書)、『会社苦いかしょっぱいか』(春秋社)などがある。


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