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保育園の騒音や建設反対問題は、70年代から議論されていた

忘れられた庶民の伝統④

■優しさで社会問題が解決すると思ってる?

 重要なのは、この二例が決してレアケースではなかったという点です。保育園や児童館の建設に対する近隣住民の反対運動は東京都内各所で起きていて、どこの区や市でも、紛争や訴訟を抱えていることを記事は報じてます。

 反対住民に高齢者が目立つのは、年をとってワガママになったからではありません。

 家にいる時間が長く、騒音被害をもろに受けるからです。

 平日の昼間に仕事に出掛けてる人は、保育園の騒音を朝から晩まで聞かされる体験をしてないので、こどもの味方をしがちです。「こどもは未来を背負う存在だ」「保育園に反対するのはオトナのエゴだ」「こどもの声は騒音ではない」「ガマンしろ」「寛容になれ」。

 あの、前から思ってたんですけど、本当に寛容な人は他人に「寛容になれ」なんて命令しませんよね。一方の側だけにガマンを強いるのが寛容なら、歴史上の独裁者は全員、寛容だったことになってしまいます。

 読売の記事は、保育園騒音の賛否双方に取材して両論を載せてます。家のとなりに保育園が建ってしまった人によりますと、騒音は基準値の45ホンどころか、80、90ホン(地下鉄の車両や工場内と同じ)になることもあるといいます。それが朝七時から午後六時まで毎日何度も繰り返されるとなれば、ガマンや寛容なんてきれいごとで片付けられません。ヘタしたら精神を病んでしまいかねません。こどもの声はまちがいなく騒音なんです。それを騒音でないというのは、戦争は殺人ではないという詭弁と同じです。

 全国の騒音被害者で組織する会の会長は、被害に遭ってない人たちが、こどもは王様というセンチメンタリズムで事実を隠そうとしている、といってますが、これはまっとうな批判です。

 このように、保育園やこどもの声が騒音か否かという問題は、都市部では少なくとも40年前にはすでに議論されてました。当時の議論からは、賛否の内容や論点についても、現在とほぼ変わらないことがわかります。

〈『歴史の「普通」ってなんですか?』より構成〉

同書では、騒音問題の解決策として、これまでの歴史を踏まえて保育園の建設地をどう考えたらいいか、についても触れられている。

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パオロ・マッツァリーノ

イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。



著書に『反社会学講座』『日本人のための怒りかた講座』『誰も調べなかった日本文化史』(以上、ちくま文庫)、『「昔はよかった」病』(新潮新書)、『会社苦いかしょっぱいか』(春秋社)などがある。


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