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この世界にはラジオを愛する人がまだまだいる。

キーワードで振り返る平成30年史 第19回

■ラジオ is  still  new.

 

 平成最後となった今秋、明るい話題もあるにはあるが、どうしても目立つのは頻発する天災。地震、豪雨、台風……、巷やネット上では「被災地を支援しましょう」と言われても、どの被災地のことを言うのか、そもそも支援できる側にある人や地域ってある? などと論議がかわされる。最近の傾向として、これまで比較的安全とされノーマークだった地域が天災に見舞われることが多いのも気になる。やはり備えは万全にしておきたい。

 被災時に頼りになるものはいくつかあるが、情報系でもっとも頼れるのはやはりラジオだろう。テレビはビジュアル的には優れているがメディアの特質からか、ローカルかつ実用的な情報伝達はあまりなされない。もっぱら第三者、非被災者的な視点からのアプローチが主になる。もちろんそれはそれで被災地の状況を危惧する遠隔地在住者への現状情報提供や、それによって支援を促すという役に立っているのだが、進行形で被災している人たちにとっては若干有用性にかけると言わざるを得ない。また、そもそも停電時には使えない。テレビに代わるメディアとしてはSNSなどネット上のサービスに期待がかけられるのだが、こちらもフェイクや誤報が多かったり、災害時には繋がりにくいという難点がある。停電時にも使えなくはないが機種や使い方によってはバッテリーの消耗も激しく、やはり万全とまでは言い難い。

 そこで思い起こされるのはラジオである。ラジオは一日中つけっぱなしにしたところで電池の消耗度も大したことはない。「どこそこに避難所が設けられた」とか、「県道○○線は不通になっているが間もなく復旧の見込み」だとか、「なんとか中学校の体育館で何時から食糧供給を開始する」だとか、極めてローカルかつ現在進行形でユーズフルな情報が流される。あの阪神淡路大震災の折には、町名、個人名などまで挙げてリアルタイムの情報提供がなされていた。こういう情報提供においてはやはりラジオがもっとも適している。

 そんな頼りになる放送メディアであるラジオには、SW、AM、FMと主に3つのバンド(帯域)がある。このうち昭和50年代にブームになったのがSWと呼ばれる短波放送。音質は最悪だが世界各国からの放送が受信できるのが特徴。かつては受信確認の記念品であるベリカードを収集するコレクターも大勢存在したが、インターネットの普及に伴い現在ではあまり見かけられなくなった。近頃の市販のラジオで受信できるのは主にAMとFMの二つのバンド。このうちAMは音質はイマイチだが送信できる範囲が広く、逆にFMは高音質だが電波が強くないので受信地域は限定的ということで、主にスポーツ中継やバラエティなどはAMで、音楽番組はFMでと役割分担がなされていた。タクシーの車内や床屋さんでかかっているのはAM、美容室や洒落たプロムナードで流れているのはFMと昭和の時代には棲み分けもはっきりしていた。しかし平成になってそこに変化が生じる。

 昭和の末まで各都道府県に概ね民放一局が存在していたAMに対し、FM局は圧倒的に少なかった。地方はもちろん都内でもNHKの他には民放はエフエム東京一局のみ。この民放FMが聞ける地域というのは全国でも大都市圏に限られ、それ以外の地域では民放のFM放送を受信することが難しかった。「ジェッ、ト、ストリーーム」とか「♪コーセー けしょーひーん かーよーうベストてーん」なんてのは、年齢層以外にもかつて住んでいた地域によっては通じないフレーズなのだ。

 

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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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