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日の目を見なくなった「モータースポーツ」栄枯盛衰

キーワードで振り返る平成30年史 第18回

 F1モナコGPと並んで世界三大GPに数えられるのが、アメリカではF1を凌ぐ人気のインディーカーレースの最高峰インディ500マイルレースと市販車とカートの中間のようなプロトタイプレーシングカーによるWEC(世界耐久選手権)の最高峰ルマン24時間自動車レース。自動車関連の企業広告と成人男性を中心に視聴率が見込めるこの2つのレースを当時のテレビ局が放置しておくはずもなく、前者はTBSが1983年から、後者はテレビ朝日が1987年から、衛星中継で生放送をしていた。

 この頃のモータースポーツは今で言うメディアミックス的なコンテンツとして展開され、テレビ観戦はもちろんサーキットに出向いての観戦、さらには試走やサーキット走行、結果や展望を伝える多くの雑誌やスポーツ紙、プラモデルやミニカーやラジコン、レーシングキャップやワッペンを縫い付けたブルゾンなどアパレル商品をはじめ様々なジャンルを活気づけた。実際のレースを元にマシンやコースを設定したアーケードゲームも次々に登場。ファイナルラップ、モナコGP、ルマン24時間、セガラリーなど、行列ができたものだった。無論、本家である自動車そのものにも影響は大きく、スポーツ性能やスタイリングを売りにした車がもてはやされ、それらの車にリアウインドウにはフォーミュラーシェルだのモービルF1だの共石シエットGP-1だの、ハイオクガソリンのステッカーが誇らしく貼られてさえいた。

 時は流れ、平成が終わろうとする今、スポーツタイプの自動車は絶滅危惧種となり、ミニバン、トールワゴン、軽自動車、コンパクトカーが道路や駐車場にあふれている。街で見かける車のリアウィンドウにはもちろんハイオクガソリンのステッカーなど貼ってあるわけもなく、代わりにあるのは「BABY IN CAR」とか「後方ドライブレコーダー撮影中」とか四葉の高齢者標章。F1もインディ500もルマン24時間も生放送はおろか録画でもダイジェストですら地上波での放送はない。いずれもBSや有料放送、有料ネット配信に移行してしまった。コアなファンはいるものの一般受けは……ということだろう。エコがもてはやされる時代ゆえ、それも仕方のないことであり、モータースポーツの本場欧州のファンも自動車メーカーもF1よりも電気自動車によるレース、フォーミュラーEに関心を持っているなどとも言われている。

 だが待って欲しい、実は近年、日本人レーサー、日本のメーカー(ワークス)、日本のチームなどは大いに結果を出している。たとえばインディ500では昨年の平成29(2017)年、佐藤琢磨が日本人ドライバーとして初の優勝を成し遂げている。またルマン24時間でも長年運に恵まれなかったトヨタがとうとう総合優勝。日本のワークスチームの総合優勝は、平成3(1991)年のマツダ以来の快挙だった。F1においても日本人パイロットこそ不在だが、パワーユニット(エンジンを含む動力供給源)サプライヤーとして第四期参戦中のホンダが四苦八苦しつつも奮闘中。来季からは強豪チームレッドブルへのサプライが決まって飛躍と完全復活が期待されている。

 近年アジア諸国の経済発展が目覚ましい。その影響もあって、中国、マレーシア、シンガポール、カタールなど、かつてはF1開催など考えられなかった国々で大会が開催されている。反面、かつてのような圧倒的な人気はないものの関係者とファンによって支えられてきた日本GPは継続の危機にあるらしい。噂では「今回が最後の開催になるのではないか」とも。今年は鈴鹿開催30回目の記念ということで伝説のマシンのデモ走行など様々なイベントが予定されているとか。久しぶりに足を運ぶのもいいかもしれない。

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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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