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生物学の研究が証明する、子育てを夫婦二人で乗り切る難しさ

京都大学 霊長類研究所の中村克樹先生インタビュー(後編)

◆子育ての新視点!「おばあさん仮説」の可能性

 昔は大家族の誰かが赤ん坊の面倒を見ていたが、現代は核家族化して子育てが母親ひとりに任され、“ワンオペ育児”のような問題が蔓延している。さらに最近は、共働きの家庭が増えていて、昔流の「男は外で働き女は家を守る」という役割は、もはや通用しなくなってきている。ひとりで子育てをしていた母親がさらに外でも働かなければならないとなると、肉体的にも精神的にもますます負担は膨らむだろう。そういったイライラが夫婦の問題にも繋がりかねない。何か打開策はないものだろうか。

「進化を考える生物学の世界では、生き物にとって自分の子孫をできるだけたくさん残すというのが非常に重要なことで、その個体の能力の高さを表しているという考え方をします。実はシャチやゴンドウクジラ、ヒトのように脳が発達してきた生き物は、リスクがある出産をずっと繰り返すよりも、出産はある年齢でやめてしまって(閉経して)、あとは孫の面倒をみるということで自分の子孫を残そうと切り替えているのではないか、と言われています。これが“おばあさん仮説”というものです」と中村先生。

 

 考えてみれば、おばあさんの遺伝子を100%とすれば、その子どもは50%、孫は25%を受け継ぐ。単純計算で、孫を4人育てれば100%となる。必ずしも50%(子ども)をいっぱい作らなくても、25%(孫)をできる限り育て守ってやる、というのは生物学の視点から見てもすごく意味があることに違いない。

「たくさんのシャチの群れを観察して、魚が少ない不漁の時こそ、おばあさんが頑張って狩りをして子どもや孫に食べさせているというおばあさん仮説を裏付けるデータを出した研究者がいます。実際、ヒトも孫の送り迎えをおばあさんがやっていたりする。何かの時におばあさんがヘルプに出る場面は結構ありますよね。だから子育てというのは元々が母親ひとりだけがやるものではない、と考えるのは妥当。核家族の体系そのものに無理が生じているのであれば、父親はもちろん、おじいさん、おばあさんが手伝うのは必然です」

 現代の暮らし方は今の社会のルールに合っているものの、個々の家庭の状況によって歪みが出てくる可能性は大いにある。それを分かっているかどうかで、パートナーに問題が起きたときの対処も違ってくるはずだ。
「母親だけで子育てをするのはもともと大変なことなのだ、という理解があれば、もうちょっと父親も助けになるようないい行動が取れるかもしれないですよね。ただ男は、悪気がなくてもなかなかうまく行動できないんです。わたし自身、あまりできていない方なので、偉そうなことは何も言えません(苦笑)」

 夫婦が互いの特性の違いを理解し合い、それぞれが感じている“社会との摩擦”を認識することもまた、良好な夫婦関係を築くうえで必要なことなのかもしれない。

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