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【教員免許更新制度の今後】教員に必要なスキルは30時間では学べない

第68回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■制度見直しの理由と新たな目的を考える

 そもそも、免許更新制度を導入する目的はどこにあったのか。それについて安倍首相は著書『美しい国へ』(文春新書)に記している。首相に就任する直前の2006年7月の発行で、首相としてのビジョンを展開したものとされている。

 そのなかの「教育の再生」という章、「わいせつ教師はいうにおよばず、指導力不足の教員が増えつづけている」として、「あらかじめ質を確保するためには、教員免許の更新制度を導入するのもひとつの方法ではないか」と述べている。
 それが、中教審答申に影響を与えた可能性は否定できない。その小見出しは、「ダメ教師には辞めていただく」である。教員免許更新制は、「ダメ教師」を辞めさせる制度として意識されている。

 ダメ教師とは「わいせつ教師や指導力不足教員」だけを指しているわけではないだろう。10年ごとの30時間講義が役に立たないとは言わないが、根本的な解決につながるかといえば、やはり心許ない。
 安倍政権は、教員免許更新制度で何をやりたかったのだろうか。その答えらしきものも著書にある。

「戦後日本は、60年前の戦争の原因と敗戦の理由をひたすら国家主義に求めた。その結果、戦後の日本人の心性のどこかに、国家=悪という方程式がビルトインされてしまった。だから、国家的見地からの発想がなかなかできない。いやむしろ忌避するような傾向が強い。戦後教育の蹉跌のひとつである」

 別の言い方をすれば、国家を尊ばない教育は「戦後教育の蹉跌」であり改めなければならない、ということだ。これが、教育基本法の改正にもつながっていく。
 第1次安倍内閣が教員免許更新制度でやりたかったことは、「国家=悪という方程式」をもつ教員の排除だったのではないだろうか。

 今年2月2日、萩生田光一文科相は「スピード感をもって制度の見直しなどの取り組みを具体化していきたい。本気で取り組む」と述べている。教員免許制度の見直しに強い意欲を表明した。
 時間を割かれることや受講費用が自前であるなど、教員の負担が大きいことを見直しの理由としている。それらが教員の重い負担になっていることは事実である。そうした負担を軽減する、さらには排除する見直しならば、教員としては歓迎しない理由はない。

 問題は「見直すのはそこだけなのか」ということだ。教員免許更新制度が、「戦後教育の蹉跌」を乗り越えることにあったはずである。
 それは解決されたから見直しを急ぐのだろうか。それとも、現状の教員免許更新制度では乗り越えられなかったから見直しを急ぐのだろうか。それとも、そんなことは、どうでもよくなったのだろうか。

 負担軽減という「目先の人参」にばかり目を奪われていると、国や文科省の向かいたい方向へ、さらに全力疾走させられることにもなりかねない。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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