特別な色とリズムが生まれる場所 沖縄のクリエイターに会いたい。【植物採集家の七日間】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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特別な色とリズムが生まれる場所 沖縄のクリエイターに会いたい。【植物採集家の七日間】

「世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。」連載第3回

 

 

■人との距離感 「ショッピングは旅先で」というライフスタイル

 

 

 物を買うということについて大きく考えが変わったのはmiyagiya の宮城さんに出会ってからだ。初めてお店を訪れたのは2017年頃。東京ではオリンピックに向けて商業施設が次々とオープンしていた。内覧会に呼ばれ、数えきれないお店や商品に出会い、SNSにも情報が溢れていた。この頃から私は大好きな買い物に疲れはじめ、旅先でしか買い物をしなくなっていった。世界のどこかにある、私だけの特別を見つけたかったのだ。

 miyagiyaは国際通りを一本奥に入って、churaumiを通り抜けた先にある。その細道の浮島通りはまさに、美しいもの、心地よいものを探求する人の「けもの道」だった。おしゃれなお店だな、と思いガラス張りの店内に入った瞬間「miyagiyaの香り」が溢れた。宮城さんが集めたアロマキャンドルなどのアイテムが店内にセレクトされ、自然と調香された香りだ。ぼんやりと沖縄の伝統陶器やちむん、手触りの良い洋服、琉球ガラスのグラスを眺めていたら宮城さんが話しかけてくれた。気がつけば1時間も滞在し、毎月の出張で通うようになった。沖縄のこと、自分の軸について、アートについて、時には恋愛相談まで乗ってもらった。よく知っているようで、実際にお会いしている時間は長くはない。絶妙な距離感と対話、そして美意識が詰まった心地よい空間に、足を運ばずにはいられないのだろう。

 「東京に住んでいる人で、金曜の夜羽田から那覇に来る。そうして日曜までの二泊三日リフレッシュして帰る人も結構いるよ。」「沖縄は冬こそ大人は楽しめるんじゃないかな、そんなに寒くないし、何よりゆったり過ごせるから。」そんな風に、旅慣れた人、センスの良い人の沖縄旅のコツを教えてくれた。miyagiyaには宮城さんの美的感覚から外れたものは一つも置いていない。棚や椅子、照明にハンガー、商品タグまで。これでいいやじゃなくて、これにしようと選んだ場所だから持つ心地よい空気がある。

 

 

 いつも仕事で悩むことの一つは、速さを取るか、細部・美意識のこだわりを優先するかだ。前者が重要だと理解しているし、どちらも大事といえばそれまでかもしれない。でも最近は、バランスすら取らなくてもいいのではと考えはじめた。

 本当に心の底からいいと思ったものしか出さない。そう決めた頃から、私のブランドThe Apoke植物採集も動き出したのだ。中途半端でいいのであれば、自分がはじめる意味がない。軸が揺らぎそうな時、いつもmiyagiyaから連れて帰った陶器でお茶を飲むことにしている。これは、世界で一番美しい茶器。誰かにとっては世界一でなくても、自分にとっては世界一。たった一人でもそう思えるものを、これから作っていきたい。宮城さんのmiyagiyaが教えてくれた大切なことだ。

 

■本質ではないものは淘汰される。生き残るものはなんだろうか

 

 

 都会に暮らしていると五感を使用することは減り、特に嗅覚や触覚が鈍る。旅という非日常はあくまで脇役だ。私たちの主役は日常である。日常こそ人生なのだが、非日常が人生の根底を見直す時間をくれるのだ。

 植物を人生の軸に置いてから、より一層本質とは何かを考えるようになった。ブランド立ち上げや商品開発などビジネスをすることは植物採集家の一部。資本主義の中で生きるにはお金が必要であり、多少のお金が無ければ自由に生きられない。けれども、パッケージだけを変えて暴利を貪り、観光客のトラベルハイ(旅行に行っている非日常で財布の紐が緩むこと)につけ込んで海外産の土産をごまかして売ることなどはしたくない。

 誤魔化しが続けられるほど人々は無知では無くなってきただろう。世界を見渡しても、土産が山ほど店頭に並び、小分けの袋まで用意されているのは日本と、主要な観光客が日本人という場所くらいだ。

 本当に必要なもの、美しいものが高価であっても手に取ってもらえるよう、どう伝えていくべきかを日々考えている。海と植物の距離が近い沖縄では感覚が研ぎ澄まされ美しいものが生み出されやすい。自然を満喫するだけではなく、自分の生き方を優しく問うてくれる場所だ。ガイドブックを置いて、けもの道を歩こう。本能を呼び起こそう。

 

古長谷莉花  植物採集家 

1986年静岡生まれ。幼少期よりガーデニング好きの母の影響で生け花・フラワーアレンジメントなどを通し、植物と触れ合って育つ。様々な視点で植物を捉え、企業やクリエイターと植物の可能性を広げる試みを行っています。

撮影協力
touch me not 中嶋亮子氏
churaumi -ukishima accessory lab.-  清水 一余氏 小池 達也氏
miyagiya-bluespot / miyagiya ON THE CORNER  宮城 博史氏

KEYWORDS:

古長谷 莉花

こながや りか

 1986年静岡生まれ、植物採集家。幼少期よりガーデニング好きの母の影響で生け花・フラワーアレンジメントなどを通し、植物と触れ合って育つ。様々な視点で植物を捉え、企業やクリエイターと植物の可能性を広げる試みを行う。訪れたい場所(株)代表取締役社長。
The Apoke 植物採集 https://the-apoke.com/

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