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世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。

連載:植物採集家の七日間

■虫の知らせを聞いたら、逃さないで

 

 

 大学生になって、すごい人ばかりだったらどうしよう…と不安だったけど大丈夫だった。身の丈にあった大学に入学したので上出来な学生生活。でも、人生で頑張りどころを作っておかなきゃまずいのではないかと「虫の知らせ」がいつも頭の片隅にあった。私はその知らせを無視しないで、20歳の時に生きていく戦略を立てたのだ。

 若さや勢い、運だけでどうしようもない日が来る。まずは経験を積み、30歳で独立しようと考えていた。実際にキャリアは計画通り。デザイナー、広報、経営、コンサルティング、小売事業を経験できた。問題がなかったわけでは無いけれど、目標は全て達成されたのだ。体は壊したけれど。

 私の務めた企業はどちらも業界のトップであり、関わる企業やクリエイターも一流が多かった。そのまま同じ場所にいると、田舎から出てきた特に目立った才能もない自分ならば、そのまま潰れてしまうか、自分を誤魔化して生きていくかの2択だったと思う。人は、目の前に選択肢が2つあったらどちらかを選びたくなるもの。でも、私は選ばなかった。終身雇用でサバイブしていく以外の目標があったし、昔話でも妖怪が出てきて「どちらかを選ばされる話」はよくあるが、どちらを選んでも結局食い物にされるのがオチだから。

 

■王道を学び、けもの道を行く

 

 

 いつも大切にしていたことは、王道を学ぶ、一流から学ぶこと。そして誰もいない道を歩むことだった。

 私が建築家として活躍できないことは、大学一年の授業ですぐに気がついた。後に研究室に入る建築家、手塚貴晴先生の学生時代のスケッチを見た時に一瞬で諦めたのだ。「同じ学生でここまでの差がある、無理だ。」初めて一流の仕事人に出会った瞬間であり、挫折の瞬間だった。おかげで自分の道を真剣に探す必要に気がつけたし、今では仕事をご一緒することもできたので挫折としては最高のタイミングだった。

 働く会社は一番大きく、有名で、実績があるところを選んだ。イメージではなくしっかりと実態を確認して。コツを掴むまではかなり苦戦するけれど、コツさえ掴めば人よりも早く結果を出せるようになった。

 真剣に仕事をして、誰よりも本を読む。大きな問題は小さく分解して。自分が直面した課題を丁寧に1つずつ因数分解し、解決していく。この作業の量をこなしてスピードを上げ、感覚的にできるようになるのがセンス。センスは先天的なものではなく努力によるものだと気がついたのは仕事をするようになってからだ。地味なやり方だけど、これが無くては何もはじまらない。

 一流の人はみな決断が本当に早くて、「見えちゃう」という言葉を使う。怪しいスピリチュアルでも何でもなくて、感覚が言葉より先に反応しているということ。いわゆる天才と言われる人も、実はそれだけの量をこなして来たのだと早々に気がつけたのはラッキーだった。

 努力をすればするほど、結果が出る。こんな楽しいことはなかった。けれども、大切なものをどんどん消耗していることには気がつかなかった。私は思いやりと人望をすっかりなくし、2度、大きく体調を崩した。予定通り30歳で独立したが、方向転換をした。今までのやり方では限界があるからだ。

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古長谷 莉花

こながや りか

 1986年静岡生まれ、植物採集家。幼少期よりガーデニング好きの母の影響で生け花・フラワーアレンジメントなどを通し、植物と触れ合って育つ。様々な視点で植物を捉え、企業やクリエイターと植物の可能性を広げる試みを行う。訪れたい場所(株)代表取締役社長。
The Apoke 植物採集 https://the-apoke.com/

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