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カイロは社会問題を学ぶ「最高の教科書」だ

交渉術はこの大学の必須科目だ カイロ流交渉術⑥

 ムカッタムには3年ほど通いましたが、危険な目に合ったことは1度もありません。人びともとても親切でした。困ったことといえば、ゴミのとてつもない異臭でひどい頭痛に悩まされたくらいです。

 カイロ留学中、私は秘密警察になんども捕まり、拘留されたこともありますが、すべて合法地帯での話です。無法地帯では、人が他人を無理やり捕まえたり、自由を拘束したりする法や権力が、そもそも存在しません。

 国家による法の規制があるのが当たり前であるような世界に生きていると、自分たちが国家に依存するのも、支配されるのも当然であるという思考パターンがしみついてしまいます。

 無法地帯は、そうした思考パターンをいったん初期化して、ゼロベースで物事をとらえ直す機会を与えてくれます。その意味でムカッタムでの経験はたいへん貴重でした。

 このようにカイロをいろいろな視点からみていくと、「世界の住みやすい都市ランキング」(『英エコノミスト・インテリジェンス・ユニット』2015年)でカイロが140都市中121位であるのもうなずけます。分野別にみると、社会インフラ117位、医療水準122位、教育水準129位となっています。いずれも世界最低水準です。

インフラ整備が遅れたカイロの街並み、パッと見廃墟

 カイロで大学生活をおくれば、新興国の社会問題を24時間365日、実地で体験できるわけです。学問が世の中の問題を解決するためにあるとすれば、カイロは街全体が最高に刺激的な教科書に他なりません。

 ただ、誰も答えを教えてくれません。わかっていれば、こんなに問題が山積みになるはずがありません。答えの出し方を学べるはずの教育自体も世界129位と問題だらけです。別の統計では、エジプトの教育水準は144カ国中141位(『WEF(世界経済フォーラム)』)となっています。

 エジプト最高峰のカイロ大学がその教育問題の象徴です。詳しくは、小著『“闘争と平和”の混乱 カイロ大学』をご覧ください。

『“闘争と平和”の混乱 カイロ大学』より構成)

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浅川 芳裕

あさかわ よしひろ

1974年、山口県生まれ。ジャーナリスト。エジプトの私立カイロアメリカン大学中東研究学部(1992年から93年)、国立カイロ大学文学部セム語専科(1993から95年)で学ぶ。アラブ諸国との版権ビジネス、ソニー中東市場専門官(ドバイ、モロッコなど)、『農業経営者』副編集長などを経て、『農業ビジネス』編集長。著書はベストセラー『日本は世界5位の農業大国』(講談社+α新書)、『ドナルド・トランプ 黒の説得術』(東京堂出版)ほか多数。訳書に『国家を喰らう官僚たち―アメリカを乗っ取る新支配階級―』(新潮社)。中東・イスラム関連記事では『「イスラム国」指導者の歴史観』『なぜ増える? イスラム教への改宗』(いずれも『文藝春秋スペシャル』)などがある。


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