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エジプトの国民的麻薬「ハシシ」とは

愛煙家多数。革命の火種にも カイロ流交渉術⑤

エジプトの国民的麻薬「ハシシ」をご存知か。広く普及する背景と、カイロの社会的状況を新書『“闘争と平和”の混乱 カイロ大学』より紹介する。

ストレス解消法とは?

 交渉術とはまた、話がそれますが。

 ストレス解消にはもうひとつ人気の手段。それが、ハシシ(大麻)です。
ハシシは12世紀から800年も続くカイロっ子の嗜みであり、ささやかな楽しみです。

 現在にいたるまで、歴代のカイロ統治者が取り締まりを試みましたが、だれもうまくいっていません古くはマムルーク朝のスードゥーン総督(アミール)が1376年、撲滅に乗り出しています。大麻畑を焼き払い、常習者の歯を引き抜く刑に処しました。その後の為政者も、栽培や流通の禁止、在庫の没収を繰り返しますが、庶民の反乱にあい断念しています。

 エジプト政府の調査では、人口の約1割がハシシを含む麻薬を習慣にしています(2007年)。その倍の2割、1500万人が吸っているとする専門家の見解もあります(『米国PRI(国際公共放送)』) 。最近、発表された民間団体のデータでは、ハシシを含むドラッグの愛好家数は「4000万から4500万人」(『カイロ及びギザたばこ業者協会』)との推計もでています。ほとんど人口の半分弱です。カイロ最大のハシシ取引地区サイイダ・ゼイナブに住んでいたときの私の実見でも、半数近くが吸っていました。

 ハシシがこんなに蔓延している理由のひとつは、『コーラン』でその吸飲が禁止されていないことです。イスラム4大法学派の中でも、カイロで主流のハナフィー派ではとくに大目に見る傾向が強く、15世紀に同派法学者のジャマル・アッディーンが「許容」の法解釈を下しているぐらいです。ただ、同じイスラム教徒でも、より厳格なハンバル派の人たちは吸いません。同派を代表する14世紀の法学者イブン・タイミーヤはアルコールと同様に酩酊作用があるとして、「禁止」の法解釈を出しています。

 

 しかし、ハシシ愛煙家は「カイロの喧噪にもまれたあとの一服は至福」だといいます。「安眠」「疲労回復」「性生活の改善」という目的もあります。結婚式などのお祝いの席では来客にふるまわれることもしばしばです。

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浅川 芳裕

あさかわ よしひろ

1974年、山口県生まれ。ジャーナリスト。エジプトの私立カイロアメリカン大学中東研究学部(1992年から93年)、国立カイロ大学文学部セム語専科(1993から95年)で学ぶ。アラブ諸国との版権ビジネス、ソニー中東市場専門官(ドバイ、モロッコなど)、『農業経営者』副編集長などを経て、『農業ビジネス』編集長。著書はベストセラー『日本は世界5位の農業大国』(講談社+α新書)、『ドナルド・トランプ 黒の説得術』(東京堂出版)ほか多数。訳書に『国家を喰らう官僚たち―アメリカを乗っ取る新支配階級―』(新潮社)。中東・イスラム関連記事では『「イスラム国」指導者の歴史観』『なぜ増える? イスラム教への改宗』(いずれも『文藝春秋スペシャル』)などがある。


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