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40歳で不妊治療をやめた女性の過去。“妊娠陽性”から5日後…

産まないことは「逃げ」ですか④

胎嚢だけで心拍が見えず=「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」

 この頃、仕事をセーブするという考えはなく、むしろ気を紛らわせたくて、通常以上に仕事をしていた。取材に行き、対談に出て、原稿を書き。そうでないと、自分の腹の中のことばかり考えてしまって、仕方なかったから。

 妊娠週数でいえば、5週1日。この妊娠週数って、よくわかっていなかったけれど、妊娠する前の生理から数える。「え、まだ仕込んでいないのに?」と思っちゃう。これ、妊娠した人は知っているだろうけれど、妊娠の「に」の字も考えてこなかった私は、ひどく感心した。毎月生理で苦しみながら、妊娠については何も知らなかったと思い知らされる。

 そして、次の検診日。胎嚢は2倍になっているが、心拍が見えない。超音波で心拍が見えないと、育っているのかどうかわからないと言われる。不妊治療のクリニックの医者は、患者を決してぬか喜びをさせないよう、言葉選びにはとても慎重だ。下手に温かい言葉をかけるでもなく、冷たくあしらうでもなく、絶妙な温度と湿度で接してくれる。このクリニックでよかったなぁと思う。

 それから5日後。超音波で見ても、胎嚢だけで心拍が見えず。血液検査の結果も妊娠を継続している状態とは言えないほど、数値が下がっていた。胎嚢だけできて中身が育たない「稽留流産」だった。

 クリニックで、たくさんの女性がいる中で、泣いた。

 

『産まないことは「逃げ」ですか?』(著・吉田潮)より構成〉

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吉田 潮

よしだ うしお

コラムニスト

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。ライター兼絵描き。



法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』、『Live News it!』(ともにフジテレビ)のコメンテーターなどもたまに務める。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より『東京新聞』放送芸能欄のコラム「風向計」を連載中。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』(KKベストセラーズ)、『くさらない イケメン図鑑』(河出書房新社)ほか多数。本書でも登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。



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  • 吉田 潮
  • 2017.08.26