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恋に仕事に疲れたら、わざわざ訪れるといい街・西荻窪

珈琲と音楽とカレー

人生の足りないぶんは、西荻窪のカレーが満たしてくれるかも。

 今日は土曜日。曇りのち晴れ。いま13時を過ぎたばかり。デートの約束でも友達と待ち合わせをしているわけでもないので、改札口にはもちろん誰もあなたを待っていない。西荻窪駅は改札を出ると、左と右に北口と南口がある。まずどっちに行こうか・・・。ちょっとだけ立ち止まって、南口に行こうと決める。駅から細く長く伸びている商店街を通勤の時の半分のスピードで歩く。途中頭上をピンクの象が通りすぎる。

 人とはたまにすれ違うくらいで、この雰囲気を落ち着いている街という人もいるだろうし、活気がないとつまらなく感じる人もいるだろう。コンビニのガラス扉に自分の全身がちらっと映り、今日の服装を思い出す。綿の薄地の白いカットソーにゆったりとした麻の紺のロングパンツ。はき慣れた白のスニーカー。トートバッグの中にはお財布と友達に借りた星野道夫のエッセイ(文庫本)が入っている。スマホは自宅においてきた。

 朝食を抜いたので、おなかが空いている。あなたはロッジのような外観のお店に出ているカレーの看板を見つける。「ほうれん草のチキンカレー」に目が止まる。外から店内が見える。広いカウンターが奥まで伸びていて一人でも入りやすい。ちょうど一人の女性が会計を済ませて出てくる。入れ替わりにあなたが入店し、カウンターに座ると同時に、ほうれん草のチキンカレーを注文する。

 小さなサラダが出てくる。カレーができあがるまで、サラダをもぐもぐして待つ。カウンターと向かい合わせのオープンキッチン。きっとあなたの目の前に立つ男性が店主だろう、うつむいてテキパキといくつもの鍋を操っている。店内にはインドの小物があちこちにある。店内に流れる音楽はインドミュージックではなく邦楽。サラダを食べ終わったころ、カレーがあなたの前に出てくる。カレーの鮮やかなグリーンとサフランライスのイエローがまぶしい。どれくらい煮込んでいるのだろう。大きなチキンがスプーンの丸い角でほろりとちぎれる。辛さはエスニック料理が好きなあなたにちょうどいい。スパイシー。元気になる。腕時計を見ると、10分足らずで平らげていたことに気づく。いつも慌てて済ませる職場のランチのせいか、早食いするクセを直そうと思う。

 カレーを食べると、なぜか珈琲が飲みたくなる。あるカフェを思い出す。以前雑誌の西荻窪特集で見つけて、気になっていたカフェ。でも店名が思い出せない。あなたは立ち上がり、お会計に進み、店員の女性に聞く。「レコードを流しているカフェを知りませんか?たしかジャズのレコード。たぶん西荻にあると思うのですが」。
 女性店員はここだと思いますと、教えてくれる。ここから近い。あなたは店名と道順を教えてもらい、そのカフェに向かう。

次のページあなたにとって大切なものを、珈琲と音楽が思い出させてくれる。

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亀星 ワルツ

1979年、福岡県生まれ。会社員。休日に漫画を描き、

インターネットに投稿。これまで文鳥を飼ったことはない。



 
 


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