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藤井聡京大教授「第二波に備え『8割自粛』を徹底検証すべし」【緊急反論①】

「専門家」に対する藤井批判は「患者から医師に対する疑義申し立て」である

藤井聡 京都大学大学院工学研究科教授

(3)緊急事態宣言は、「2週間」のタイムラグ(時間遅れ)後の新規感染者数を減らすために出される

 ところで本稿では、岩田氏の見解にコメントさし上げる前に、当方の記事の概要を簡潔に解説しておこうと思いますが、さらにその前に、以下の一点だけはご理解いただきたいと思います。

 そもそも、皆さんが日々目にしている「新規感染者数」の数字は、「今日のPCR検査で陽性と分かった人の数」を意味しています。しかし、その人達が「誰かからうつされた日」はその日ではありません。なぜなら、「感染」してから1週間程度の潜伏期間と、「発症」してから「PCR検査を受けて陽性とわかる」までの間に1週間程度の時間がかかるからです。したがって、感染してから陽性が分かるまで、(人によってまちまちですが)おおよそ2週間程度の時間がかかるのです。つまり、「2週間」の「タイムラグ(時間差)」があるのです。

 したがって、感染者数のグラフは、おおよそ「2週間前」に「感染した日別の感染者数」の「タイムラグ(時間差)」のある推移のグラフになっているのです。

 ところで、ある日に、緊急事態宣言を出し、外出8割自粛を要請したとしましょう。そうすると、その効果が数値に現れるのは、翌日でも1週間後でもなく2週間後です。繰り返しますが、その対策をとって、その日に新しく感染する人が減ったとしても、その日に感染した人が検査を受けて陽性だと分かるのは、おおよそ2週間後だからです。なので、「2週間のタイムラグ(時間差)」よりも後に、その対策に効果があったかどうかがわかるのです。

 しばしば「感染症対策は、2週間後の未来を作っている」と言われるのはまさにこれが理由なのです。

?(4)藤井による西浦・尾身氏批判の概要

 それでは、以上をご理解いただいた上で、当方の批判概要を改めて紹介したいと思います。

 1)(4月7日の時点では2週間の時間差の都合で分からなかったものの)皮肉にも西浦氏が5月12日に公表したデータは、『4月7日の緊急事態宣言は不要であり、無駄であったということ』(厳密には可能性)を示すものでした。そのデータによれば、1)緊急事態宣言を出す約10日前の3月27日の時点で新規感染者はピークアウトして減り始めていたこと、2)4月7日時点の緊急事態前後で感染者数の変化動向(実効再生産数)に変化が見られなかった、ということが示されたからです。つまり、この西浦氏のデータは、「8割自粛」という戦略ではなく、それよりもずっと緩和的な(新規感染者が既に減り始めていた)「3月下旬頃の状況を持続する」という戦略を採用しているだけでも、感染の爆発は抑えられ、むしろ感染者は減少しており、十分だったということを示すものだったのです。

 2)なお、緊急事態宣言は、経済を疲弊させたことは間違いありません。

 3)以上の1)と2)より、4月7日の「緊急事態宣言/8割自粛」という政策は「間違いだった」という結論(控えめにいって、その疑義が濃厚だという結論)が導かれることになります。なぜなら、その8割自粛対策は、経済を疲弊させるという「副作用」だけはバッチリあるが、新規感染者は「緊急事態宣言/8割自粛」の前後で変わりなく減り続けていたので、その効果は明確でなかったからです(なお、4月7日時点では情報が限られているため、だからといって、その政治判断が間違いだったと言うことは出来ません)。かくして、この結論より次の教訓が導かれます(以下は、本文の引用です)。『「8割自粛戦略」は、感染抑止に効果は無い(あっても薄い)のであり、次回「第二波」がやってきて「緊急事態宣言」を発令する時には、「8割自粛戦略」を軽々に採用することは厳に慎むべきである。それよりもより効果的であり、かつ、経済社会に被害が小さい対策を取ることが必要である』

 4)したがって、筆者は、西浦氏・専門家会議が「GW明けの緊急事態解除」を科学者として主張しなかったのは国家経済破壊の「大罪」であると考える。

 筆者はこのように「思った」「考えた」わけですので、『わたしは、西浦・尾身氏らによる「GW空けの緊急事態延長」支持は「大罪」であると考えます。』という「私的な見解」を公表し、両氏の回答と共に、世論の議論の喚起を企図したという次第です。

 ついてはそうした筆者の私的な見解の公表に対して、公的なメディア上でお答えいただいた岩田氏に、心から感謝の意を表したいと思います。

 

次のページ(5)岩田氏の「反論」

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藤井 聡

ふじい さとし

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。京都大学工学部卒、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授等を経て、2009年より現職。また、11年より京都大学レジリエンス実践ユニット長、12年より18年まで安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。専門は公共政策論。著書に『経済レジリエンス宣言』(日本評論社)、『国民所得を80万円増やす経済政策』『「10%消費税」が日本経済を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』(共に晶文社)、『プラグマティズムの作法』(技術評論社)、『社会的ジレンマの処方箋』(ナカニシヤ出版)、『大衆社会の処方箋』『国土学』(共に北樹出版)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)、MMTによる令和「新」経済論: 現代貨幣理論の真実(晶文社)など多数。

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  • 藤井聡
  • 2019.10.28